美月ができる事 ー 3.
リンドングラン領の領主であるバトラシアとウィルバーン夫妻に受け入れられ、暫く勉強漬けの日々を送っていた美月がようやく生活にゆとりを持てるようになったのは、ここに来てから1ヶ月ちょっと経ってからだった。
それまでは勉強勉強に明け暮れて、夕食を終えて風呂に入るとそのまますぐベッドに潜り込んで眠っていたのだ。
ようやくそんな勉強漬けの生活にも慣れた頃、美月はマップルをずっとバッグに入れっぱなしにしていた事を思い出した。
思い出すと触りたくなってしまい、美月は風呂のあとすぐにバッグの中からマップルを取り出した。
「すっかり忘れてたよ。よく考えたらこれを使えば勉強の予習復習なんてラクチンだったのに・・・」
今までは館の中にある図書館でバトラシアやフランチェスカと一緒に本を開いて調べものをしていたのだが、マップルを使えばあっという間に検索できてしまう事に今更ながら気づいたのだ。
「な〜んで今まで気がつかなかったんだろう・・・」
ぶつぶつ言いながら、美月はテーブルの上にマップルを置いて早速起動させる。
「確かに慣れないここでの生活で一杯一杯だったんだけどさ。それでも1ヶ月もマップルに触ってないなんて信じらんないっ」
グラッターのアイコンを押して、早速検索を始める。
検索するのはリンドングラン領だ。
リンドングラン領、と打ち込んで検索を掛けると、いくつかの検索結果が現れた。
そこには領地の広さ、領民の数、領の中心の町の名前、などなど、既にバトラシアとフランチェスカから習った事が載っている。
それを見て少しガッカリするものの、ふと思いついた事を打ち込んでみる。
「大森美月、スペース、ステータスチェック、っと」
バトラシアとフランチェスカから受けていた授業の中で、2人からステータスという単語を聞いたのだ。
この世界では人には誰でもステータスというものがある、のだそうだ。
王都にある大神殿に行くと、そこにいる神官がステータスを見てくれるのだとか。ただし、ステータスを見る事ができる神官は現在3人しかおらず、その3人とも大神殿にしかいないから、ステータスを見てもらうためにはそこへ行くしかない。そして、かなりの力を消耗するとの事で1日に見てもらえる人数も制限されているとの話だった。
おまけにステータスを見てもらうためには寄付金として最低大金貨1枚が必要だと言う。
ぼったくりだ、と美月は声を大にしていってしまったが、大金貨が美月の知っている円に換算すると100万円だと思えばそれも仕方ないだろう。
それでもそのステータスが判れば美月に向いている職業もある程度判るとボトラシアから言われると、ステータスを知る事も必要かもしれないと考えたのだ。
そして、もしかしたら美月のマップルを使えば自分のステータスが判るのではないか、と思いついたのだ。
「あっ」
検索してすぐに出てきたのは、ステータスチェック、という項目だった。
それをクリックすると、ステータスチェックのアイコンをダウンロードできるとある。
美月はすぐにダウンロードのボタンをクリックして、マップルがそれをダウンロードし終わるのを待つ。
それをしている間、ヒマを持て余した美月は思いつきで、バトラシア・リンドングランとグラッターに打ち込んでみる。
その検索結果はすぐに出てきた。
パッと見にはウィ○ペデ○アみたいで、そこを開くと、ウィ○ペデ○アそのままだった。
バトラシアの経歴がずらっと書かれていて、彼女の夫の事やこの領地の経営状態まで載っているのを見てしまうと、何か秘密を知ってしまうような気がして美月は慌てて閉じてしまった。
そうこうしているうちにダウンロードが終わったのか、見知らぬアイコンが現れている。グラッターのアイコンは球体の惑星をイメージさせるものだったが、ステータスチェックのアイコンはなんとなくメビウスの輪を思わせるような数字の8を横にしたようなデザインだった。
ただし、同じものが2つ並んでいる。
「そういえば・・・」
ここに来た時に、アストラリンクが録画していたものを見た事を思い出す。
確か彼が美月のステータスの事で、それを調べるためのアイコンがあると言っていた事をアイコンが2つ並んだのを見て思い出したのだ。
「ま、いっか」
とりあえずアイコンをクリックしてみる。
出て来たスクリーンには色々と打ち込む項目があるようだ。
まず名前、年齢、性別、出身地、両親の名前という項目もあるが、その全てを埋める必要もないようだ。
必須のマークが付いているのは名前と年齢くらいのもので、美月はとりあえず自分の名前と年齢を打ち込んでから検索ボタンをクリックする。
すると、『水晶をマップルに繋いでから、掌を水晶に乗せてください』と出てきた。
水晶?
そう言えば水晶あったな、と思いつつバッグに手を突っ込んで「水晶水晶」と呟く。
すると硬いものが指先に触れたのでそれを掴んで取り出すと、それは10センチほどの大きさの水晶とそこからケーブルが出てきている。もちろんケーブルの先はUSBポートに差し込めるようになっている。
そう言えばこんな形だったと思い出しながら、美月はそのまま水晶から出ているケーブルをマップルに差し込む。
テーブルに水晶を置こうとしたものの、転がりそうなのでバッグから着替えとして入っていたシャツを取り出してその上に置く。
ボゥッと明かりを灯したように淡く発光した水晶を見てから画面を見ると、『掌を水晶に乗せてください』と文章が変更されている。
美月はそのまま書かれている通り掌を水晶に乗せると、少し水晶が発光したかと思うと画面が切り替わった。
名前 大森美月
性別 女
種族 人
ランク 3
体力 10 ※
知力 21 ※
魔力 0
スキル 使役
加護 グランドカロン神の加護(大)
「・・・・できちゃった」
思いのほか、あっさりとステータスチェックができた事に、美月の方が驚いた。
まさかマップルを使ってこんな事までできるとは思ってもいなかったのだ。
それでもステータスチェックができたおかげで、これからどうすればいいのかを考える事ができる、と美月はホッとする。
とりあえず見てみよう、と美月は少し意気込んで画面を見る。
名前の後ろに(ミッキー)とあるが、きっとこれは呼び名だろう、と美月は見当をつける。
色々な項目に数字が付いている。とはいえ美月にはなんの事か全く判らない。
なので数字のあとに付いている※マークを押してみると、グランカスターにおいての人の平均的な数字がでてきた。
それによると人族女性の平均数値は体力25、知力20とある。なんとか知力は平均ほどあったものの、体力は平均の半分しかない。それもここに来て朝2キロほどマラソンを初めて1ヶ月ほど経っているのに、だ。という事は来た当初はもっと酷かったのだろうと推測できる。
おまけに技能は無しときたものだ。
がっくりと美月が肩を落としたのも無理はないだろう。
「こんなので、ここで生きていけるのかなぁ・・・やっぱりマップルじゃなくて勇者の力とか貰った方が良かったのかも・・・」
今更ながら思うものの、当然もうどうしようもないのだ。
「それに魔力がゼロって言うのも酷い数字だよね。でも、日本人に魔力があるとは思えないから、こればっかりは仕方ないのかなぁ・・・」
美月は突っ伏した頭を横に向けて、スクリーンの数字を見つめる。
もしかしたら魔法が使えるかも、と思ったのだがどうやらそれは無理らしい。
「でもこの『使役』ってなんのことなんだろう?」
ここでの日常生活では聞いた事のない言葉だ。バトラシアもフランチェスカも『使役』については教えてくれなかった。
とはいえこれはスキルとなっているから、もしかしたら美月にできる仕事になるかもしれない。
ほんの少し気分が上昇して、美月は頭をテーブルの上から持ち上げる。
それから新しいタブを開けてグラッターを呼び出し、そこに『使役』と打ち込んで検索する。
「なになに・・・・服従の刻印を授ける事で、己の使役獣として支配下に置く事ができる。ただし、使役者の能力が低い場合は程度の低いものしか使役できない。使役者が己の能力以上のものを使役しようとすると、反対に使役しようとした相手に殺される・・・ことも、ある・・・って怖いじゃん」
美月はそれを読んでから、ステータスチェックの項目に切り替える。
そこにある美月の数値はあまりにも低い。ということは彼女に使役できるものは知れているという事だ。
しかし、頑張って体力知力を上げていけば、もしかしたらある程度のものを使役できるかもしれない、という事だ。
「よしっ、明日にでもドナヴァンに頼んで基礎体力作りに何をすればいいのか教えてもらおうっと」
とりあえず少しでも体力が付いたところで使役できる生き物を探しに行こう、美月はそう決意した。
Edited @ 07/16/2015 19:11CT




