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鬼と呼ばれた少女




「……あっ」


少女は目前を飛んでいった蝶を見つけ、小さく声をあげた。

その白い蝶は踊るようにして森の中を進んでいく。

少女はその蝶に誘われるようにあとを追った。


――その時。


「――っ!!」


蝶の向かった先に人がいることに気づき、足を止め咄嗟に木陰に隠れた。


(……ひと?)


この森に人が来るはずがない――……


少女は木陰から顔を出し、蝶の向かった先をもう一度伺い見た。


――やっぱりそこには人がいる。


少女は自身の目を疑った。

目をこすって再び見てみるが、見えるものに変わりはない。


その人はどうやら男の人のようだ。背格好からして15か16くらいだろう。

彼は木の根元に座り、漆黒の髪を風に靡かせながら本を読んでいる。


ふと、彼が顔をあげ少女のほうに目を向けた。


「――っ!!」


少女がギョッとして再び木陰に隠れると、少年はクスリと笑いそして少女に話しかける。


「大丈夫、何もしないよ」


その優しい声音に少女は恐る恐るという風に少しだけ顔を覗かせた。

すると、少年は彼女に微笑みかけ自分の隣を叩きながら「おいで」と言った。


「…………」


少女はすっと木陰から出ると少年から少しだけ距離をおいたところに膝を抱えて座る。

そんな彼女に少年は問いかけた。


「君、どうしてここにいるの?」


「…………」


少女はうつむき黙ったままで、少年の問いに答えない。


「ここって鬼がいるんでしょ? 怖くないの?」


「…………」


「じゃあー……君、いくつなの?」


「…………」


「……名前は?」


「…………ぃ」


「え?」



「……――ない」



「ない? それって、名前がないってこと?」


少女は静かに頷いた。


「……親は?」


「……しらない」


「知らない?」


少女の答えに少年は眉間に皺を寄せ問い返す。

少女は再び頷くと、膝に自分の顔を隠すようにうずめた。


そんな少女を少年はじっと見つめると、「じゃあさ」と言いながら再び微笑みを浮かべる。


「僕がつけてあげるよ、君の名前」


「――え?」


少女はバッと顔をあげて少年を見た。

その目は大きく見開かれている。


その時、サァーっと風が吹き少女の銀色の髪を靡かせた。

日の光で少女の髪が光り輝く。


「……綺麗な髪だね」


少年がそう言いながらすっと手を伸ばし、彼女の髪に触れた。


「――よし、決めた。


――君の名前はルナだ」


少年はそう言って笑った。


「……るな?」


繰り返して言う少女に少年は頷く。


「ルナっていうのはね、月って意味なんだよ。君の髪、月みたいに綺麗だったから」


少女はもう一度自分の名を口にすると、嬉しそうに笑みを浮かべた。









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