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いふるーと・ありさ

 IFルート アリサ 


・チートコードAAを入力してゲーム開始することが必須条件 その上で北アッシアに居を構えている間にアリサの好感度が一番高いと発生 シナリオスチル有 必須条件を誤るとデータが消える。

 最近、窓の外を眺めることが多くなったように思う。

 戦争の爪痕があまり残っていないこともあるだろうが、城内以上に活気の溢れている町が、たまに羨ましくもあった。

 王女として生まれてこの方、町を視察以外の目的で回ったことなど一度しかないが、それでもたまにグリアッドやクサカを連れて外を歩くと、同年代の少年少女が楽しそうに日々を謳歌している様を見せつけられて、たまに、ちょっぴりつらい。


 ままならないものだし、自分には、彼らにはない大望があるのだ。だから、仕方ないと割り切ってはいても。

 それでもやはり、胸が痛むというか、何かもどかしいというか。


「最近リューキに甘えすぎたかしら」


 弱くなってしまったのかと、思う。気丈に振る舞って居た頃は、民を羨むことなど無く、ずっと一直線に自らの道を見続けていたように思うから。


 アリサの執務室の窓から見える景色は、訓練場と、そして内壁を隔てた先にある城下町。昼は賑わい、夜もしばらくは松明の灯りが空を照らすほど。


 よくもまぁ、ここまで辺境を発展させたものだと思う。

 食をテーマに、宝石などの商売も含めてこうして豊かになってきた北アッシア。

 そのおかげで、視察でも人々の笑顔を見ることができているのはとても嬉しいことであった。


 豊かで、優しい国。


 国、ではないが、こうして自分の領地をここまで発展させることができた。

 それがなによりも嬉しく、そして何よりもありがたかった。


 これからだ。


 そう前を向けるのも、この町が美しいと思えればこそ。




 しかしながら今日のアリサは、前を見るよりも先に、自分の足下に目を落として少々憂鬱になっていた。



 この城に居ると、幹部はともかく兵士などはすぐにアリサの年齢を忘れてしまう。

 それほどまでに研ぎ澄まされたカリスマが、雰囲気がそうさせて居るのだが、果たしてその実年齢はと言えば、まだ15にも満たない少女なのである。


 竜基の故郷では、まだまだ遊びたい盛りである上に、社会には殆ど通用しない程度の力しかない年齢。どんなにあがいたところで、完璧な自立などできやしない。


 そんな少年少女と同年代のアリサは、こうして今一軍の将としての位置に堂々と立っている。


「……住む世界が違うだけよ」


 自分を律するような、押さえ込むような台詞が漏れた。

 誰もいないこの場所だから言える、小さな吐露。


 もう一度視界に意識を戻してみれば、訓練場の方ではずいぶんと楽しげな声が聞こえていた。


『リューキぃ! こっちこっち! 早く来いよ!』

『あ、ちょ、お前体力ありすぎだっての……!』


 楽しげに駆け回る、今さっき幻視したような少年少女がそこに居た。

 赤髪の少女はとても楽しそうに、全速力で少年を呼び込んでいる。少年はと言えば、必死で追いかける中にもどこか楽しそうな表情がちらほら見えていた。


「……微笑ましい、んだけどね」


 ふぅ、と一息、小さく重い何かが漏れた。

 わだかまりなのか、それとも何か別のものか。

 そんなことは分からないが、いずれにせよどうにも切なく、そして胸が締め付けられるようなものであったことには違いがなかった。


「……」


 空を見上げてから、ふと部屋を振り返る。

 山積みになった竹簡が、アリサのサインを心待ちにしているようだった。

 それを見てまた一つため息をついてから、もう一度外に目を移す。


「……なんだか今日は、仕事に力が入らないわ」


 鬱屈とした何かを胸の端に掃き貯めて、瞳に映る外の景色に、しばらくの間思考を委ねていた。













 ぜえはあと荒い息を整えながら、訓練場のど真ん中で竜基は膝に手をついていた。

 しばらく前に寂しい思いをさせてから、わりかし時間のある時はライカと遊ぶようにしていたので、彼女の機嫌はすこぶる良好。そんな彼女の、太陽のように眩しい笑顔を見るのは好きなので、なんだかんだで竜基も楽しんでいた。


「あはは、ありがとなリューキ!! 楽しかった!」

「……ちょ……待って……はぁ……ふぅ……なっさけないなあ……俺ぇ……」


 日本では、才能があまりなかったとは言え龍平に鍛えられていたのだ。ライカには敵わないと分かってはいたものの、ここまで体力が落ちているとは思わなかった手前、わりかしショックではあった。


 それでも、未だ元気そうにけらけらと笑うライカを見て、よかったなと思えていた。


「ああ、居た居たリューキ」

「んあ? どうしたグリアッド……ちょ、待って……」

「エネルギー切れかな?」


 呼吸を整えている間に差した影。見上げればそこに居たのはいつもおねむの寝こけ野郎。

 何の用事かと問いかけるよりも先に、がし、と肩を組まれて、体力の残っていない竜基はちょっとよろけてしまう。


「……この前、あ~ちゃんとどっか出かけた?」

「……出かけ、た? ……あ~、お前にブチ切れられた時な。視察と称してちょっと下町にお忍びで」

「……なるほど。なるほど、分かった、納得だ」


 ぱっと肩を放し、竜基はタタラを踏んでようやくバランスをとった。何の話なのかも分からずきょとんとするライカの視線はさておき、グリアッドは竜基に向かってパン、と手をあわせた。


「何だ急に?」

「いや~、ちょっとあ~ちゃんが仕事手につかないみたいでさ。また気晴らしでもしてやってくれよ。僕じゃあ、どうにも部下以上にはなれないみたいでね」


 身を竦めてそう言うが早いか、癖なのか今度はライカの肩に腕を回し、くるりと竜基に背を向ける。


「ライカ、この前すっげえウマメシをみっけてな~」

「え、ちょ、おいリューキ?」

「まーまーまー。ちょっとつきあってよ」


 困惑しながら竜基を見るライカに、行ってきなよと合図をして。過ぎ去る金髪の背中にため息をついた。


「どこのナンパ師だ」


 それにしても。


「……俺も、部下以上になれているかどうかなんて、分からないんだけどなあ」


 グリアッドの発言の真意をまるでつかめないまま、とりあえずはアリサに会った方がいいのだろうかと彼女の部屋に向けて歩きだした。





 訓練場から城までは、そんなに遠くはない。それこそ竜基が元居た世界で言う本丸のようなものだから、訓練場とも直接行き来できるようにはなっていた。

 番兵も、いくら何でも竜基を知らないわけもなく。世間話混じりの適当な審査だけで入城し、アリサの部屋へと一路向かう。


「……部下以上、ねえ」


 部下以上にはなれない。その口振りから、グリアッドは部下以上の何かになるつもりだったのだろうか。

 疑問は多少残るものの、いまいち糸口も見つからないのでは仕方がない。

 ふと思いついたものをあげてみると……


「マブダチ?」


 いやいやそんなはずはない。

 なんだマブダチって。転移する前の中学では、そう言えばこんな言い方もしていた気がするな、と口に出してみる。


「ズッ友?」


 ……アリサと竜基は、ズッ友だよ!


 ……絶対に違う。


 そもそもズッ友の定義がいまいち分からない上に、向こうの世界で流行っていたものをグリアッドが知るはずもないかと思い直す。


「……ほかにあるとすれば……」


 自分に置き換えてみると、何があるだろうか。

 ……アリサが相手。

 主と部下、よりも上位の関係とも言うべきものは……。


「いやまぁアリサ可愛いから、そりゃ男としては……」


 そこまで考えて、ああ、グリアッドはそういう意味で言っていたのかもしれないな、と気づく。

 廊下を歩きながらぶつぶつと独り言を言う奇怪な軍師の様子は日常茶飯事だが、こんなくだらないことをつぶやいているのは初めてだった。


「そうかそうか、グリアッドはアリサのことが……いやしかしあいつが抱いているのはなんかもう崇拝とかそういう域だったような気がしないでもないなあ……偶像? アイドル? ……アイドルには興味なさそうだし」


 いやしかし、世が世ならアリサのステージに黒鍵を振るうグリアッドの様子くらい、容易に想像できてしまうのはなぜだろうか。


「……アイドルのアリサではなく、アリサがアイドルなのか。……それはそれで、うん。俺も興味はあるかもしれない」

「何の話よ」

「いや、アリサがアイドルだった場合についての商業戦略とかその辺諸々」

「アイドル?」

「そうアイド……ってアリサ?」


 アリサよ。

 両手を腰に当てて、何を当たり前のことをとばかりに訝しげな視線をこちらにやってくる少女が一人。

 すわいつの間にか部屋についてしまうという、夢遊病もびっくりなことをしでかしてしまったのかと思いきや、どう見ても廊下だった。


「何かぶつぶつ言いながらこっちに向かってくるもんだから、ちょっと聞き耳立てたら何よ。私がアイドルって」

「いやほら、なんか一軍の将がひらっひらな服着て『みんな~! 今日は私の為に戦ってくれてありがと~!』とかやってみたらどうだろうかと」

「ないわね」

「ないな」


 いつも以上にトーンの低い声に、竜基も思わずうなづいた。意外と、未練があるのは秘密である。


「で? どこに行こうとしてたのよ」

「ちょっとアリサに会いにね」

「そう、アリサなら部屋よ」

「ああ、ありがとーーってそんな訳あるかお前目の前に居やがって!!」

「……本当に引っかかると思ってなかった」


 唖然とした表情が逆に腹立たしく思えてしまったのは仕方がない。

 竜基は胸の奥底で、本気でプロデュースしてやろうかと思ってから自分にそんなノウハウが一切無いことに気づいて考えるのを辞めた。



「そういえば、アリサ仕事は?」

「なんか身が入らなくて、ちょっと気分転換をしようかと思ったの」

「で、廊下の散歩か。しけてんなぁ」

「うるさいわね……用って何?」

「ああ、そうだった。ちょっとまた、お忍びで町にでも出ないか?」

「……ほへ?」


 あまりに唐突すぎる、あまりに自然な提案に、アリサは一瞬惚けてしまったのだった。















「今度はあっちに行きましょう!!」

「城出た瞬間元気だな!?」


 腕を引っ張り、アリサは露天の小物屋へと向かう。

 このメインストリートには、最近は食品以外にも衣類関係に力を入れ始めたともあって、嗅ぎつけた証人たちが様々な衣料品をこの街に流し込んできた。

 おかげで今はまた街が発展し、ヒナゲシ主導の元、税金に関しての法令を自治で固める方向で動いている。


「ねえリュウ、これどうかな?」

「……あ~ちゃんも肌白いからな。同系色以外なら何でも似合ってしまうから困る」

「……誉められてるのよね?」

「……半分誉めてて、半分困ってる」

「ならまあ、いっか!」


 押さえようと思っていた自分も、さっきまでは居た。だが、こんなに羽をのばせそうな環境で、隣には竜基が居て。久々のお出かけで、そして何より望んでいた行楽。

 城の内門を出たとたんに、そんな抑制は吹き飛んでしまった。


「じゃあこれ、ください!」

「あいよ! 嬢ちゃん可愛いから確かに何でも似合うが……彼氏がそれを言っちゃだめだろうが! ハッハッハ!!」

「ちょっ」

「か、かれし!?」


 何を言うのやら、と苦笑しながら受け取る竜基の横で、顔を真っ赤にしながらチラッチラッと竜基を上目遣いで見るアリサ。何か妙な察しをしたらしい小物屋の男性はまた豪快に笑うと、そうかそうかと頷いて親指を突き立てた。


「頑張れよ、嬢ちゃん!!」

「ち、ちが!! そんなんじゃないもん!」

「ハッハッハ!! そうかいそうかい!」


 南雲竜基はおいてけぼり。


 アリサは瞳まで潤ませてとっさに竜基の腕をとると、ぐいぐい引っ張って露天を後にする。


「あ、ちょ?」

「もう! 何でそんなに無表情なのよ!」

「無表情では……ないと思うんだがなあ……」


 呆けていた、というのが正しいのだが、今のアリサにはどっちでもいいことだった。

 男性の笑い声をバックに、アリサはどんどんとメインストリートを奥に突き進み……中央広場へと出た。


「……え、こんな場所作ったっけ」

「リュウが居ない間に、ヒナゲシ主導で作ったのよ。憩いの場を作るべきだ、ってね」


 日が傾いてきたこの時間帯になると、竜基とアリサよりも1、2歳ほど年上の人々がよくこの場を使う、との報告があがっていた。さっきのはカウントしないとして、散々はしゃいで楽しんだ後に訪れるスポットとしてはなかなか良いものではないかと、アリサの中でのヒナゲシの好感度が若干あがる。

 真ん中にある池は、精霊石の影響で軽く噴水を作っており、竜基にとっても日本を思い出す、悪くない場所だった。


「それにしても」


 きょろきょろと周りを見渡して、アリサは少し後ずさった。軽く竜基に隠れるような立ち位置に移動したので、何事かと思って振り返る竜基にアリサは呟く。


「……か、カップル多い」

「あ~……まあ俺らよりちょい高めの年齢層がよく使うって時点で、察せるけどな……」


 ぽりぽりと後頭部を掻きながら、竜基は苦笑いしてあたりを見回す。なるほど確かに、設置されたベンチやら噴水の縁やら、そしてぐるりとドーナツ状に囲む遊歩道のあちこちに男女のペアを見かける。


「……ん?」

「どうしたの?」

「いや……」


 と、ある一つのペアで視線のスクロールを止めた竜基が、アリサにもわかるように指さしたちょうどそのタイミングで、向こうもこちらに気づいたらしく、男の方があわてて駆け寄ってきた。後ろの少女も、何事かとばかりに追いかけてくる。


 男の方はぴたりと竜基の目の前で止まると、がばっと頭を下げた。


「お久しぶりです!!」

「あ~……お忍びお忍び。頼むから目立つことやめて」

「失礼いたしました!」

「……えぇっと?」


 男の後方から駆け寄ってきた少女と、竜基自身の背後からの疑惑の視線が突き刺さる。

 男は小さく、連れ添いの少女に耳打ちした。彼女はみるみる目を丸くして慌てて頭を下げるので、それに対しても竜基は苦笑と手を振ることで応じた。


「ガイアス旗下の、隊員だよ」

「ああ、なるほど……」


 納得して、アリサも向き直る。しかしながらさすがに王女までここに居るとばれてはまずいのもあって、フードを深く被っていた。

 隊員の青年は、竜基とずいぶん親しそうに話し始め、アリサはそれを少しの間聞いていた。

 部下と仲良くなるのも、一つの人徳だと考えながら。


「ところで、彼女さん?」

「はい! 長年片思いをしていたのですが、勇気を振り絞って告白してみたんです! すべてガイアス将軍の叱咤激励のおかげです!!」

「……あいつじゃ全部根性論になるんじゃあ……いやまあでも、あれだね。おめでとう!」

「ありがとうございます!」


 笑顔で頭を下げる青年の背後で、照れくさそうに少女は一礼した。

 では、と何度も何度も頭を下げながら、仲睦まじく手を繋いで去っていく二人を見送って。アリサは、執務室で感じていたわだかまりが、倍くらいになって押し寄せてきたような気分になった。鉛がどっしりと胸の中で重くのっかっているようで、とても苦しく思う。

 ため息なんて吐いても、出ていくようなことはない。

 なぜこんなに締め付けられるのだろうか。

 それは、分かっていた。

 ちらりと見上げれば、何の気負いもなさそうな表情の竜基が首を傾げている。

 この男は、本当に。


「……リュウ、あっち、行かない?」

「ん? ああ。でももうそろそろ暗くなるから、戻らないとダメだと思うよ?」

「お願い。ちょっとだけ」

「……じゃ、それが終わったら帰ろうか」

「ありがとう」


 もう、胸の支えは我慢できなくなっていた。

 14歳の冬。アリサの心は、今だけ。たった今だけ、ただの年端もいかない女の子のものだった。



 ちょっとはずれた場所に、石積の塀がある。

 メインストリートの付近に作られた小さなそれは、だいたいアリサの身長程度の高さしかない。

 広場の端に作られたそれの役割は、もし敵が城内まで攻め込んできた場合に身を隠せる場所を作るため。実際、この塀の裏には実は地下への入り口がある。


 軽く足場を作れば、その塀の上によじ登ることができた。不思議と、その程度の高さでも登れば空が近づいたように感じることができて、ちょっぴりの幸せを味わうことができる。

 日は沈み始め、もう一番星が空に輝いていた。


 アリサと竜基は隣合わせでその塀の上に座ると、二人してしばらく空を眺めてなにも言わずに居た。


「……リュウ……リューキ。半年くらい前のことだけど、覚えてるよね?」

「半年前……そうか、もう半年前になるのか」


 思い返すのは、出会い。

 釣り竿とはとても言えないようなお粗末なものを川へ放り投げ、振り返ったあの瞬間。

 ライカと竜基の家で語った、アリサの夢。

 押し寄せてきたレザム卿の軍勢。

 そして……その夜に二人で見上げた夜空。


「……14歳の女の子で居ていいのは、リューキの前だけ、だったよね」

「そう言ったな。で、実際やらかしてくれたな、城に来た時は」

「お忍びで出かけたのもあの時よ」


 グリアッドに殺されかけた思い出も、良い薬として竜基の心には残っている。そしてあの時アリサが見せた、心からの笑顔も。


「……」

「なによ、顔赤くして」

「いや、何でもない」


 今日も、グリアッドは色々と訳の分からないことを言っていたように思う。部下以上のなんちゃら、とか。

 そんな思考を巡らせる竜基とは別に、アリサは空の星から目を放さないまま、ぽつりと呟く。


「今日もそうだったんだけど、ね」

「ん?」


 竜基の目が、アリサに向いた。彼女の横顔は、銀髪が空の暗がりに映え、紅の瞳が美しく星を反射していた。

 まだ成長しきっていないのか、その頬をつついたら柔らかそうだなとか見当違いのことを竜基は思う。


「たまに……思うの。ただの町娘だったら、楽しそうなのになって」

「……」

「分かってる。自分にはやらなきゃいけないことがあって、やりたいことがあるって。そういう普通のことは、全部切り捨てなきゃいけないんだって。……でも私は……ちょっぴり、ううん、凄く羨ましいの……今日の、あの子のことも」


 きっと、噴水で出会った少女だろう。

 青年と楽しそうに手を繋いで、青春を謳歌していたように、竜基も感じた。


「でも、ね。前よりもずっと、その気持ちは強いの。リューキが、ここにくる前と比べると、ずっとずっと。ずっと、あの子たちが羨ましい……」


 ゆっくりと、アリサの顔がこちらに向いた。

 その瞳には、なにが映っているのだろうか。星を照らしていた、ルビーのように綺麗な目。


「何で、って聞いてくれないの?」

「……聞こうか、な……」


 竜基の心に、何かが引っかかっていた。きっと、何かがつかえているのだとは分かっている。けれど、それがいったい何なのか。この、可憐な少女を抱きしめてあげたいと思う衝動と、抑制する理性と、このせめぎ合いはいったい何だろうか。


「……簡単なの。とっても、とっても簡単な質問」

「……何で、なのかな?」


 心の内で、聞くのをやめろと言った自分が居た。

 けれど、この少女の今放っている、雰囲気がそうさせてくれない。華奢で、そう、とても――


「そんなの」


 ふっ、と何かが触れた。

 眼前には、その綺麗な瞳を閉じた少女の顔が至近距離。

 なにが起こったのか分からず、思わず人差し指で確認したのは、自分の唇。


 満面の笑みを浮かべた、夜に映える美しい少女が朗らかに笑った。


 ああ、そうか。

 

 この衝動は、自分が、この子を愛おしいと思っているからで。


「リューキのことが、大好きだからに決まってる」

一周年記念短編として投稿されたものです。

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