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年末の宴

「もうすぐ、一年の終わりね」

「ああ・・・・・・そう、だな」


 竜基とアリサは、二人肩を並べて窓の外を眺めていた。

 眼下に広がる城下町のにぎわいは、今日はなりを潜めている。年越しという行事は厳かに、そしてゆったりと送られるものなのだ。


 これは、日の本の国から伝わる由緒ある行事で、だからこそ王族でもあるアリサは重んじることに何の疑問も持ち合わせていなかった。


「まさかこの場所でも、年越しを体験することになるとは思わなかったよ」

「そう? 私、結構好きだな。こういう雰囲気」

「そっか」


 竜基の右肩に寄り添うように、アリサの美しい銀の髪が揺れる。

 若干頬を赤らめる竜基だったが、静かに目を閉じて夜の帳に思いを馳せていたアリサはなにも気づかない。


「他のみんなは?」

「・・・・・・そんなこと聞くの? 二人きりじゃ、いや、かな?」

「・・・・・・あー。これアリサちゃんモードか」

「えへへ」


 ぽりぽりと頭を掻く竜基の表情がまんざらでもなさそうで、アリサはいたいけな笑みを見せた。

 二人きりの時だけ、と約束した、あの日。一人の少女で居てくれと竜基が言葉にした、あの日から。

 つらくても苦しくても踏ん張って、こうして今年も何とか生き抜くことができた喜びを噛みしめて。


「たまには、許してくれるよね?」

「いつも、あれだけ頑張っているから、しょうがないか」


 ため息混じりに、されど暖かく竜基も口元を緩めた。

 アリサの頭が竜基の肩に寄りかかり、二人は寄り添って寒空を見上げる。


 なるほど、と思った。

 アリサはこうして時間を作る為に、他のメンバーとは関係のない場所に竜基を誘ったのだ。

 年越しまでにほとんどの仕事を終わらせていたので、竜基はライカと遊ぼうかと思っていた矢先のことだったのだ。


「いい場所だな、ここ」

「高いところって、嫌いじゃないから」

「王者の特権だな」

「ちゃかさないでよ」


 ぷっくりと頬を膨らませるあたり、完全に子供だ。あれだけいつも気を張っているからすっかり忘れてしまう。竜基も、こうしてアリサが素を見せてくれるからやっと思い出せる。彼女はまだ、15にも満たないのだと。


「私、来年も頑張る。きっと、夢をかなえて見せる」

「その先も忘れるなよ? 優しい国を作った後は、それを守らなきゃいけないんだ」

「分かってるわよ。・・・・・・だから、さ」

「ん?」

「だから・・・・・・来年も。・・・・・・ううん、ずっと、これからもずっと。私のそばに居てね」

「当然だ。俺が仕えるのは、アリサだけだよ」

「そ、か。ふふ・・・・・・えへへっ」


 恥ずかしくなったのか、顔を竜基の腕に埋めた。普段はライカくらいしかすることのないそんな仕草に、竜基の頬も自然と緩む。

 これからもこんな幸せな日々が続いたら、なんて甘いことは考えない。

 だがそれでも、こうしてささやかな時間をずっと、大切にしていきたい。


 生きていく


 たった五文字がこんなにも重くのしかかる世界なのだ。

 ささやかな、人の温もりがこんなにも幸せで、ありがたいものだと知って。


 竜基は思う。


「俺、この世界に来て、良かったのかもしれない」

「・・・・・・え?」

「あれだけ苦しい思いもしたけれど。それでも、こうして、俺は幸せを学ぶことができた。人に仕えることの重みも知った。この経験はきっと、元の世界では味わえない」

「・・・・・・リューキ」

「ん?」


 言葉を、想いを砂でもこぼすかのようにぽろぽろと吐露して。アリサの崩れた笑みのような、泣き笑いのような顔が、目の前にあることに気づく。


「私には、リューキが居ないとダメだった。だから・・・・・・その・・・・・・良かった。アッシアに来て、後悔ばかりじゃなくて・・・・・・」

「あ、あぁ」


 内心、舌打ちした。不安にさせていたのだろうと。日の本の国から来た、とだけアリサには伝えてあった。どうして来たのか分からないばかりだからこそ、帰りたいと思う意志の強さを図りかねて居たのだろう。


 そして、内心無理につなぎ止めているかもしれないと心苦しかったのかもしれない。


 だから、竜基は揺れていた。



 自分は、帰りたいのだろうか、と。




「ああああ!! リューキ! なにさぼってんだよ!! ずりーぞ!」

「・・・・・・お、ライカか。やほやほ」

「やっほーじゃねー! どこにいったかと思ってあたし・・・・・・!」


 汗を掻いているところをみると、探してくれていたらしい赤髪の少女。

 扉の無い、この静かな物置のような部屋を通りすがって、人影に気づいたのだろう。


「アリサまでいんのか。ちょーどいいや。ほら行くぞ! みんな待ってる!」

「あ、ああ」

「・・・・・・いきましょうか」


 小さく、困ったような笑みを浮かべたアリサに、竜基も苦笑してうなづいた。


「なんだおめーら。なんかわかんねーけどいらいらする。ほら行くぞ!!」

「いて! いて! ライカ力強いって!!」


 無理矢理腕をとられて竜基は引っ張られていく。その姿に目を一瞬まるくして。そして、アリサは微笑んだ。


 ああやっぱり、この幸せな時間を来年も、一生懸命生きていこう。と。

















 広間では、テーブルの上に様々な食事が並んでいた。豪華すぎず、質素すぎず。このほどよく発展した都市の基準にふさわしい、ささやかな祝いの席。


「どこに行ってたのさ」

「アリサに連れられて、三階の物置に」

「ものおっ!?」

「・・・・・・どうした? 顔赤いけど」

「うっさいバーカ!! よるなバーカ! 竜基のバーカ!」

「はあ!? いてぇ! 足を蹴るな!」


 上座と下座で隣あわせの竜基とヒナゲシ。仲の良い上司と部下の関係に、向かいの席に座るクサカは楽しげに笑う。


「はっはっは、竜基。お主もまだまだ乙女心がわからんのう!」

「いや、クサカに乙女心がわかるとか言う方が不気味なんだが」

「不気味!?」

「ふはははは!! 確かに御老人が乙女心を語るとは滑稽な話だなぷげら!?」


 クサカの隣で高笑いを始めたガイアスの頭がテーブルに叩きつけられた。もちろん、他ならぬクサカの剛腕がふるわれたせいである。


 ヒナゲシは未だに機嫌悪そうに竜基から距離を取り、そんな彼女の感情が全くと言っていいほど理解できない竜基。物置のなにが悪いというのか。


「祝いの席のはずが、何でこんないつも通りのカオスなんだ」

「キミは少し人の心を理解できないと軍師失格だよ。心理戦の一つもできないよ。バーカ」

「いちいちテーブルの下で足を蹴るのやめてくれませんかねぇ!?」

「はっはっは、痴話喧嘩か若いの!! いいのう!」

「・・・・・・あー、クサカ。だいぶ発言が爺だぞ」

「なぬぅ!?」


 わいわいがやがや。

 ライカとグリアッドも広間に合流し、行事でしか使われないこの部屋が一段とにぎやかになっていく。

 そんな北アッシアの面々に、一人上座でアリサは口元を緩めた。


 こんなにぎやかな日々が。

 そして、竜基や、みんなと暮らす日常が。


 これからもずっと続けばいい。

 誰一人欠けることなく、こうして楽しい時間を過ごしていきたい。




 来年もどうか、笑顔で過ごせますように。






「ほら! 年越しの祝宴を始めるわ!! みんな杯をとって!!」






 自分の悲願を達成したいという思いと、この幸せな日常を手放したくないという思いの葛藤を振り払う。







「みんなとったわね! こらライカまだ食べないの!! はい、かんぱい!!」

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」







 今日、この時くらいは。

 年を越す、たった一つの行事の間くらいは。


 すべてを忘れて、楽しもう。









「「「「「「「よいお年を!!!」」」」」」」

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