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Vampire Love

作者: LEO
掲載日:2012/08/09

私の高校生時代の一番の思い出は、ヴァンパイアに恋をしたこと。

彼が転校してきたのは二年の春。彼と私はその年の夏から卒業まで、楽しい日々を過ごした。


「―――利央奈、俺と一緒にヴァンパイアになってくれないか?」

「ッ!」

校舎の屋上。

卒業式を終え、私は私達二人の最後の日を過ごしていた。

「漣、お願い。それ以上は言わないで…最後の日まで、泣きたくない」

漣はそういう利央奈を抱きしめて言った。

「ゴメン、利央奈。もう言わないから、な? 利央奈は自分の道を進めばいい。一人の人間として、幸せな時間を過ごせばいいんだよ」

漣を思おう愛しい気持ちがこみ上げてきて、漣を抱きしめ返しながら、ただ無言でその想いを伝えた。

「漣…」

「ん?」

「漣は…これからどうするの?」

「……言っただろ? 俺は自分の国に帰らなきゃならないんだ。明日になれば、俺は日本を発つよ」

静かにそう答えた漣に「そんなっ!?」と思ったが、口から出た言葉は違かった。

「そっ…か。そう、だよね。…あ、そうだ。漣、右手を出して目をつむって?」

「ん? こう?」

利央奈は漣に見えていないことを確認すると、制服のポケットからミサンガを取りだし、漣の手首に結んだ。

「OK?」

「うん」

「ミサンガ…。俺のために?」

それは、不思議な模様の入ったミサンガだった。

「ううん。私と漣、二人のため。ほら、私にも…。逢えなくなっても、ずっと一緒だから」

そう言って差し出す手首には、漣とは違った模様の入ったミサンガが結んであった。

「利央奈…ありがとう。俺達は離れていてもずっと一緒だよ」

漣はためらうような間を置いてから続けた・

「……利央奈、よく聞いて。明日になったら、皆の記憶から俺は消える。もし、―――」

「そんなっ! 私の中からも消えちゃうの!?」

利央奈は漣が言い終える前に言った。

「利央奈、落ちついて最後まで聞くんだ。もし、利央奈が忘れたくないって言うなら、俺は消さないよ。でも、これから生きていくなかで俺との記憶が障害になってしまうようなら、俺は利央奈に許可をもらわなくても消しに行く。けど、忘れないで欲しい。俺はいつでも利央奈を見守っているよ。泣いている時も、笑っている時も。利央奈が誰かを好きになってその人と結婚しても、永遠にね」

「なら…」

「ん?」

「なら、毎月。…毎月私を見守ってるっていう証拠をちょうだい? もし、私から漣の記憶が消えても、私が誰かに見守られてるってゆう証拠を…」

「……わかった。じゃぁ、こうしよう? 俺は毎月、青いバラを送る。それが俺から利央奈に送るプレゼント。ミサンガをくれたお礼だよ」

「うん…。約束ね、漣。永遠の…約束」


私は漣にミサンガを。漣は毎月青いバラを送ることを約束して、私達の『恋』は終わりを告げた。


そして、今―――

私は教師として、再び、思い出深いこの学校に帰って来た。もちろん、今、この学校に「成瀬漣」という私の愛したヴァンパイアは居ない。それに、あの頃私達の担任だった先生に聞いてみても、彼は存在していなかった。


「あら? 利央奈先生、ブルーローズですか? 珍しいですね~」

利央奈が職員室の一角に青いバラを飾っていると、先輩の遠藤先生が声をかけてきた。

「えぇ。友人から送られてきたんですが、家だけに飾っておくのはもったいなかったので」

「それにしても、良い色ね。どうやったらこんな素敵な青い色に染まるのかしら。どこで育てているのかわかる?」

「え…っと、そこまでは…」

「あ、ごめんなさいね。私園芸が好きだから、つい夢中になっちゃって。ねぇ、今度もらう機会があったら、どうやって育てているのか聞いてもらっても良いかしら?」

「あ、はい。逢えたら聞いてみますね」

利央奈がそう答えると、遠藤先生は嬉しそうな顔で自分の席に向かった。

(はぁ…次からは持ってこれないなぁ~。花だけ置いてあって、その友人とは会ってないんです、なんて言えないし。それにしても、遠藤先生の趣味が園芸だったなんて…知ってたら持ってこなかったのに)

そう思いながら席に着くと、出入り口の方から名前を呼ばれた。

「利央奈先ー生っ」

「美嘉。職員室に入るときにはクラスと名前を言わなきゃだめでしょ?」

「ブー。失礼します。二年五組の成瀬美嘉です。利央奈先生に用が合って来ました」

「はい。で、どうしたの?」

美嘉は利央奈の前まで来ると、目を輝かせて言った。

「先生、皆と一緒にお昼食べませんか!? 天気も良いし、屋上で!」

ふと廊下を見ると、美嘉と一緒に来たであろう女子生徒数人がこちらを覗いていた。

(まぁ、たまには生徒たちとお昼を食べてみるのも良いかもね)

「ん~…別にかまわないけど。皆お弁当はもう持ってきているの?」

「ううん。場所取りしなきゃいけないから、先に置いて来た」

「そう。じゃぁ、廊下で待っていてくれる? すぐに行くから」

「はぁ~い」

美嘉はそういうと、他の女子とともに廊下へと行った。


―屋上―


「先生っ! 先生って『恋人』いるんですか?」

女子生徒とガールズトークをしていると、美嘉が突然、「ズバリ」といった様子で目を輝かせながら聞いてきた。

「えっ…恋人!? 私にはそんな人いない、いない」

「えぇ~うっそだぁ~。利央奈先生みたいな綺麗な人に彼氏がいないなんてありえないでしょ」

一緒に話していた生徒の一人が言った。

「ホントだってば。恋なんて高校生以来してないもの」

『えぇ~~っ!』

「え、それ本当!? 先生、それはなくない?」

今度は美嘉が利央奈を憐れむような目で見ながら言った。

「美嘉、そんな目で私を見なくていいから」

「だってー」

美嘉がそう言って笑うと、同意するように他の生徒も笑った。

「美嘉の言うとおりだよね。先生が受け持ってる男子生徒の、少なくとも半分は先生に惚れてる、って言うのに…恋人がいないなんてね~」

「男子って言えばさ、あの小波洸も先生に惚れてるって噂だよ」

美嘉は内緒話でもするように、声を低めて言った。

「えっ! それ本当!? 先生うらやましい~」

「うらやましいって…私が生徒と恋仲になるわけでもないのに。それに、小波洸って? 私が受け持ってない生徒だってことはわかるけど…」

「先生、小波洸も知らないの!?」

「え、えぇ」

生徒の迫力に負けてたじろぐ利央奈。

「先生、この学校のイケメンは押さえておかなきゃだめでしょ」

「小波洸ってゆうのはですね―――」

そう話し始めた美嘉は楽しそうに言った。

「―――顔もカッコイイし、スポーツ万能。頭も良くて、次期生徒会長候補! 人柄も良いし、皆の頼れるお兄様って感じ。趣味はサーフィンで彼女はなし。文句なしの女子の憧れの的ですよっ!」

「そ、そうなんだ」

「ま、でも、今の生徒会長が洸のことを気に入ってて、そのうち付き合うようになるだろうって噂もあるけどね。もうすでにってのもあるし」

「ふぅ~ん。じゃぁやっぱり、ここにいるみんなも彼の事は好きなの?」

「ん~…好きというよりは憧れで終わりかな。生徒会長に勝てる気しないし。あ、でも美嘉は違うんじゃない?」

「どうして?」

「だって…ねぇ?」

その女子生徒は美嘉の様子を窺うようにこっそり見た。

「美嘉には洸と同じぐらいカッコイイ彼がいるから」

「え? 美嘉には彼氏がいるの?」

「んまぁね。同じクラスの吉田柊っていうんだけど、先生知ってる?」

(吉田……柊…。えっと…)

「もしかして、バスケの県選抜に選ばれた人?」

「そう。その人」

(ふぅ~ん)

「お似合いね」

「あ、やっぱ先生もそう思うよね! 柊君と美嘉は美男美女のカップルで『理想のカップル』って言われてるんですよー」

「もうっ、余計なこと言わないでよ!」

美嘉がそう言って笑うと、皆もつられて笑った。

キーンコーンカーンコーン……

「あ、予鈴…。じゃぁ先生、うちらは先に戻るね」

「先生、また今度お昼一緒に食べようねー」

そういうと、生徒達は次々に教室へと戻っていった。

「美嘉もほら。急がないと本鈴なっちゃうよ?」

利央奈はゆっくりと後片付けをして、のんびりしている美嘉を急かした。

「先生」

美嘉は手を止めてまっすぐに利央奈の目を見て言った。

「放課後、時間ありますか? ちょっと相談したい事があって…。放課後、ここで待っているので来てもらえませんか?」

少し困ったような笑みを浮かべて話す美嘉を見て、皆の前では話せないような事なのだろう、と察して、「わかった」と返事をした。

そして、美嘉も荷物を持って教室へ行くと、利央奈は一人残り、屋上のフェンス越しにグラウンドを見下ろした。

(『理想のカップル』か…いつの時代でもあるものなのかな。漣…私達は本当に、皆の言う理想のカップルだったのかな…。もし、あの卒業式の日に戻れたのなら、貴方に応えを聞けるのにね。……もう一度、もう一度だけ貴方に―――)

「だめね。こんなんじゃいつまでたっても新しい彼は出来そうもないわ。―――いつまでもこんな調子なら、あの時…」

そこまで言うと、頭を振って続きは言わなかった。

「さ、私も早く戻って仕事しなきゃ!」

利央奈は自分を元気づけるようにそう言うと、職員室へと戻っていった。


金曜日の今日はいつもより事業時間が短い。クラスを持っていない私は放課後になると少し時間を置いてから屋上へと向かった。


「あ、先生遅いですよー」

ドアを開けると、そこにはフェンスに寄りかかって立つ美嘉がいた。

「美嘉…貴方はずいぶん早いのね」

利央奈の所まで歩いていくと、隣に立った。

「HR終わるの速かったから」

「そう」

「…………」

「……美嘉?」

「…先生。ここから見る夕日がとっても綺麗だって、知ってる?」

「えぇ。私も学生の頃、この季節になると毎年ここにきて夕日を眺めた」

利央奈は『二人で』とは言わなかった。

「後一時間もしたら綺麗な夕日が見れそうですね」

「そうね」

「先生?」

「ん?」

「…先生は永遠の命が欲しいって、思ったことはないですか? 私は、もの凄くそれが欲しい…」

「…どうして?」

「今すぐここから抜け出して、やり直したいことがあるから。…逢いたい人がいるんです。今、この場所、この時間を投げ捨てでも逢いたい人が。……でも、死という限界が有る限り、私は逢えないんです。今というこの時間は何度も経験できるものではないから」

「そうね。人が何かするには、あまりにも時間が少ない。……今から六年前、私があなたと同じ高校三年生のとき、私も同じことを考えた。そして、私は『今を生きる』っていう答えを出した」

「もし、永遠の命が手に入れることができたのなら、先生はどうした?」

「私は……それでも、『今を生きる』って答えを出したでしょうね」

「それが、今だったら?」

「え?」

「もし今、同じ質問をされたら先生はどんな答えをだすの? 時と共に時代も友人も変わる。今と高校生の状況は何もかも違うでしょ? 先生は、今だったらどう答えるの?」

「今……か。そうだなぁ~」

利央奈はグランドがよく見渡せるところまで移動すると、部活動をしている生徒たちを眺めた。

(もし、また漣に逢うことができて、まだ漣が私を好きでいてくれるなら……そんなことが起きたら、私はきっと――)

「今の私なら、手に入れたいって…願うかな」

「そっか…。何で今と昔とでは答えが違うの? やっぱり状況が違うから?」

「ん~…確かにそれもあるかもしれない。でも、一番の理由は…」

(漣への思いが強いから。―――なんて言えないし。我儘だな、自分は。私から振ったのにこんな風に思うなんて…)

「先生?」

「え? あぁ、一番の理由は考え方が変わったから、かな。ところで、こんなことを話すために私を呼んだわけではないでしょ? 絶対に何か隠してる顔だもん」

「まぁね。今までは皆がそろうまでの時間つぶし、ってとこかな。あ、ほら。ちょうど来た」

そう言って美香が指さす方向をみると、屋上の出入り口から二人の男子生徒が入って来た。

「先生、紹介するね。私達から見て、右が私の彼氏の吉田柊。で、左が噂の小波洸」

「あぁ、お昼に言ってた…」

「美嘉、一体どういう事だ?」

洸と呼ばれた美形の男子が少しきつい言い方でそう言ってきた。

「居ればわかるわよ」

美嘉はあっさりと何でもないとでも言うようにして答えると、利央奈の隣に立った。

「美嘉、これでいいかい?」

対して、柊はやわらかい物腰で言った。

「ありがとう、柊」

「で? 皆って言うのはこの二人だけなのかな?」

「うん」

そううなずきながら言うと、おもむろに利央奈に抱きついた。

「…先生。永遠の命って何だと思いますか? 死? 幽霊? 神様が持っているもの? それとも――ヴァンパイアとか?」

「美嘉、さっきからどうしたの? 何かあったの?」

いつもと様子の違う美嘉に戸惑いながらもそう聞いた。

「ううん。私は何もないよ。さっき…、先生は今なら永遠の命が欲しいって言ったよね。それって、死にたいってこと?」

「えぇ? そんなんじゃない。もし手に入るのなら、欲しい、ってだけ」

「よかったぁ~。じゃぁ、先生も『仲間になろうね?』」

「え…?」「美嘉ッ!!」

利央奈の疑問の声は、洸の美嘉を呼ぶ声にかき消された。そして、すぐ後に身体を強く引っ張られ美嘉と引き離された。

「美嘉ッ! お前今何する気でいた!」

洸にそう言われた美嘉は、尻もちをついて倒れていた。

「何って…見てて分からなかったわけではないでしょう? 私は利央奈を仲間にしようって思っただけよ」

美嘉は洸に見下ろされながらも強気で返した。

「お前ッ!」

洸は美嘉を殴ろうとして、その腕を柊に掴まれた。

「兄上、私のフィアンセを殴らないでください」

「柊! お前もか!」

美嘉は注意が柊にそれている隙に叫んだ。

「先生! もし、あなたが今でも私の兄を……成瀬漣を強く思っているならっ! 今の、あなたの本当の気持ちを言って!!」

「え…え??」

「早く! キャッ!」

美嘉は叫んでいる最中に、何かに殴られたように倒れた。

「柊、命令だ。俺が良いと言うまで美嘉に喋らせるな」

「……はい、わかりました、兄上」

洸は振り向くと、利央奈に苦笑いをしながら近づいた。

「先生、すみません。美嘉が変な事言っちゃって―――」

洸は誤解だとでも言うようにして言ってきたが、当の利央奈は聞いていなかった。

「美嘉、あなた、漣の妹…なの? あなたも、ヴァンパイア…?」

美嘉は一言も話さなかったが、その目が、質問の全てを肯定していた。

「ウソ……」

利央奈は膝から崩れ落ちるが、膝が地面に着く瞬間、洸がその身を両腕で抱きとめていた。

「先生! 大丈夫ですか!?」

そして、利央奈は抱きとめてくれたその右の手首についているものを見て、涙を流し、確信した。

「私は…この六年間、ひと時も…漣のことを忘れることができなかった。自分から言って…別れたのに、逢いたくて、逢いたくてっ! …月に一度送られてくる青いバラだけが、まだ、覚えていてくれてるんだなって…」

そこまで言うと、涙を拭いて、笑顔を洸に向けた。

「漣……まだ、あなたが私を愛しているのなら、」

利央奈は一度深呼吸をしてから続けた。

「…私に、永遠の命を、下さい」

洸は目を見開いて驚いた。そして、それが覚めると利央奈を座らせ、自分も真正面に片膝をついて座った。

「先生何言ってるんですか? 美嘉がヴァンパイア? それに俺が『漣』? そんなこと―――」

「兄上ッ!! いい加減正直になってください! これが本当に最後のチャンスになるかもしれないんですよ!?」

集は美嘉の肩を抱きながら、美嘉が言いたい事を代弁するように言った。

「柊、お前何言ってんだ? 俺がお前の兄なんてわけないだ――」

「――貴方の手首。ここにあるミサンガは私が卒業式の時に漣にあげたもの。間違えるはずがない。だって、ほら…」

そう言うと、利央奈は自分の手首からミサンガを取り、洸のミサンガの隣に結んだ。

「『MY LOVER』…私の恋人……?」

「うん。これは私が手作りして漣にあげたの。だから…貴方は成瀬漣。私の大好きなヴァンパイア。私に…もう一度、聞いてくれる?」

洸、いや、成瀬漣は、利央奈を抱きしめこう言った。

「利央奈……俺と一緒に、ヴァンパイアになってくれないか?」

利央奈はうれし涙を流しながら、はっきりとささやいた。

「はい…」


私は今、この学校に教師として働いている。成瀬漣という教師とともに、『成瀬利央奈』として――――。


読んでくださった方、ありがとうございます(><)

意見などがありましたら、教えて下さるとうれしいです。

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