第二十四話
前話に対し、こちらはサクっと。
ハラハラとしていただければ良いのですが……
☆
泥が、セレスたちを薙ぎ払った。地面に叩きつけられ、痛みに悶えている。
あれでは、次の攻撃は躱せない。
――シルファさん、セレスたちの魔法でも、止められないんだ……
アリアムは思う。
このままじゃ、ダメだ。
シルファを止められない、どころか、あの二人までも失ってしまう。
このままじゃ、ダメだ。
二人が危ない。
何とか――何とかしなくては。
――カチリ。
奥歯が鳴った。
痛みが消える。
気付いたときには、足は動いていた。
震える膝が、自然と前に出る。
彼らを庇うように。
嵐を目前にして、とある記憶が脳裏に浮かぶ。
それは、先日の夜のこと――シルファが、水の魔法を使っていたこと。
そして、遠い昔――祖母とやった実験のこと。
直感だけを頼りに杖を手放し、アリアムは両手を前にかざした。
――シルファさんは、水の使い手。この魔法も、泥ではなく、“水”を操っている。だからあのとき、ナタスさんの炎を受けて乾いた泥は、操れなかった。
現在の状況判断、自他の戦力分析、己の持てる能力の評価、その限界値の評定、それらを加味した応用の考察――
思考が流れる。
――わたしには“空気中の水蒸気の分解”、“体内物質の生成”、“摩擦熱による発火”、“引火”の四つの行程を順にやる炎の魔法なんて使えない。
でも、 “水の分解”――それだけなら。
祖母との記憶を手繰る。
まだ小さな頃のことだったが、その映像は鮮明に覚えている。
――水の分子式は“H2O”。つまり、酸素と水素に分けるということ。
水の分解はやったことがある。たしか、電気を流していたっけ。あの棒は……鉛筆の芯だった。鉛筆は炭と同じようなものと聞いたから……炭素か。よかった。それなら、体の中にたくさんある。今朝、パンを食べたし……
自分の想像に、ほんの少しだけ笑ってしまった。
おかげで、肩の力は抜けた。
掌に、意識を集中する。
――両手に炭素を集めて、泥が当たった瞬間に…… ううん、それじゃダメ。間に合わない。
そうだ、空気中にも水はあるんだ。なら、それを通じて、直接作用させれば……
掌の神経を流れる、微弱な電流。その電位を、一瞬だけ強める。
右手を正極に、左手を負極に。
右手から電気を発し、泥を通して、左手でそれを受ける。
活目。無心。瞑想。
――できるかな……? ううん、やらなくちゃいけない。やらなくちゃ、二人が……!
我は世界、世界は我。
我の見しものが我の世界。
我の思いしものが我の心。
我が心とともに世界は在り、世界は我が心で成立する。
我が心に応えよ、我が世界――。
「――分かて!!」
掌が輝き出す。
純白の光。
どこまでも透き通り、どこまでも清らかな、聖なる光。
そう、思えた。
純白の輝きが、赤い光を呑み込んでいく。
徐々に、徐々に、嵐が鎮まる。
「私の、魔法、が……」
次第に力を失っていく感覚を噛みしめながら、シルファはそれでも、力を込める。
ほんのわずかだけ、勢いが甦る。
しかし――
「もう、終わりです。シルファさん……」
その全てを、アリアムの光は――アリアムは“受け入れた”。
嵐が晴れる。
そしてアリアムは、彼女を――友を止めるべく、力を振り絞って地を蹴った。
「私は、倒れるわけにはいかない! 何を“犠牲”にしても、必ず死を払い、あの子たちを甦らせる……それまでは、その日までは!!」
シルファが、叫ぶ。
力を使い果たし、支点の定まらない身体で、それでも、なお。
「だから、どうしてそれが――」
アリアムも叫ぶ。
ずっと思っていたこと。
『何を犠牲にしても』――得られるものは同じ。それを、自分はこの十年で思い知った。
祈って、願って、それでも神は救ってはくれなかった。
その気持ちは、痛いくらいによくわかる。
けれど、
「――どうしてそれが、矛盾しているということに気付かないの?」
死を払うために、他の何かに“死”を与える――
死を無くそうとして、その結果に死を生み出している――
自分の痛みを言い訳に、他人に傷を強いることを正当化している――
大きな、とても大きな、矛盾。
それは――それだけは、絶対に間違っている。
「もう、やめましょう…… シルファさん――」
嵐の晴れた闇に、小さな音が響いた。
いかがでしたでしょうか?
ようやくバトルシーンも終わり、あとは大団円……となるんでしょうか? 変なのも出してしまったし……
ところで自分で自分にツッコむことになりますが、アリアム、“水の分解”以外にも、“体内物質の生成(炭素)”をやってますよね…… 全然不器用じゃないし……
にしても、盛り上げ方“も”下手ですね。もう全然ダメダメ…… もっと上手くなりたいです。
愚痴が多くてごめんなさい。
図々しいのは百も承知ですが、どうぞ皆様の批評をお聞かせ下さい。