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第四話

大変遅くなって申し訳ありません。

最近忙しかったもので、ようやく続きを投稿できました。それゆえ、というのは言い訳になりますが、今回もボロボロだと思います。

読みにくいことこの上ないと思いますが、どうぞご容赦ください。


「アリアム、何をしている?」

 足を止め、わずか顔を上げて、にやにやと笑いながら佇む――ナタスの目にはそう映っていた――アリアムに、ナタスが声をかける。傍から見れば、やはりこれは彼女がバカのようにしか見えない状況ではあった。

「あ、はーい」

 だがアリアムは満足そうに微笑んで、とてとてと駆け出す。周りの目は、全く気にしていないようだ。

「これから、どうするんですか?」

 ナタスの下まで駆け寄ると、これからどこか観光にでも行こうかというような期待に満ちた表情で問い掛ける。

「待つ」

「へ?」

 だが、返ってきた答えは、彼女の予想の斜め上を行っていた。

 無論、観光に来たわけではないことくらい、アリアムも理解していたが、それでも『待つ』という答えが返ってくるとは想像していなかったのである。

「えっと…… 誰を、ですか?」

「俺の知り合いが迎えにきてくれることになっているんだがな、まだ来ていないらしい。目立つからすぐわかるだろうと言っていたんだが……」

 言いながらナタスはキョロキョロと辺りを見渡す。

 アリアムもそれにならうように、周囲を見回して、目立ちそうなものを探してみた。

「目立つものといえば…… 人がいっぱいですよねぇ……?」

「人探しには全く役に立たない目立ち方ッスね」

 それに、すかさずセレスが突っ込みを入れる。

「んーと、色んなお店がありますね」

「待ち合わせの場所はここですわよ?」

 続けてディアナまでもが突っ込む。

「じゃあじゃあ、アレは? 馬のいない馬車!」

「アレは“自動車”。馬がいなくても走る、最新科学の産物だ」

 と、今度はナタスが、やはり突っ込みを入れつつ、“物知らず”なアリアムに説明をしてやる。

 この世界において、“自動車”というのは最近になってようやく実用に耐えるものが出始めた、最先端のものだった。

 しかしそれ故に、未だコストパフォーマンスが著しく悪く、そのため軍部か、あるいはごく一部の金持ちだけが所有できる、大変希少なもの。一般の市民が持ち得るようなものではなかったのである。

 だから、アリアムが知らないのも、無理のないことではあった。

「ほへー…… 世の中進歩しているんですねぇ」

「そうだな。だが確かに、あれは“目立つ”……」

 何かを考え込むように、じっと自動車を見据えていたナタスだったが、そう呟くと急に自動車に向かって歩き始めた。

「あ、待ってください!」

 アリアムの言葉を気にかけることもせず――実際、目指す車はすぐそこに見えているのだし、距離もたいしたことはないので、問題など起こるはずもないのだが――ナタスはすたすたと歩いていくと、その自動車の前で足を止める。

 丸みを帯びた小さめの車体。さび止め、あるいは塗料の剥離はくりを防ぐために施された、コーティング剤の微妙な光沢を持つ黒塗りのそれは、“角のないカブトムシ”という表現が一番しっくりくるだろう。

 正面にはクリッとした大きな目のようなライトが付いていて、エンジンの冷却のために開けられた通気口はニッと歯を見せて笑っているようにも見える。

なかなか愛らしい顔立ちである。


 その愛らしいカブトムシの後部座席、その窓がナタスの到来とタイミングを共にして開かれる。

 そして、中から一人の老人がひょっこりと顔を出した。

「ホ、遅かったの、ナタス」

 その老人の言葉に対し、ナタスは鼻を鳴らしながらニヤリと笑う。そして、敬う様子など欠片も見せずに返した。

「やはりお前だったか。自動車とは、ずいぶんと派手なのが好みになったのだな」

「なんじゃ、久しぶりの再会だというのに、つれないのー…… 手紙もとんとよこさんし」

 そう言うと老人は口を尖らせた。楽しげに会話を交わしているところを見るに、彼らはかなり親しいようだ。

 ナタスもまた、それに笑いながら応える。

「爺さんと文通する趣味は持ち合わせていないのでね。それより、ピーマン嫌いは治ったのか?」

「風情の欠片もない…… 少しは再会を喜ばんか」

「それほど時が経ったわけでもないだろう。それに……」

「あ、あのー」

 そんな二人の会話に、後ろから小走りで駆け寄ってきたアリアムが手を上げながら入っていく。

 彼らの邪魔をするのは無粋だとは思ったが、しかしこのままでは置いてけぼりにされそうだ。

「ああ、すまん。こいつは『ゼピュロス』。俺の古い友人だ」

 ナタスはアリアムの方に向き直って、老人を親指で差しながら紹介する。

 老人もまた、アリアムが会話に入って来易いようにと、微笑みながら語りかけてきた。

「ホ、はじめまして、お嬢さん。ゼピュロスと言いますじゃ」

 白髪に白髭、顔にはしわが目立つがそれでも肌は透き通るように白い。

 また服装も白で統一され、全身がまったくの白色である。しかし服の生地には濃淡様々な白が用いられており、それを組み合わせて作られているらしく、とてもセンスの良い格好である。

 彼の雰囲気と合わせると、まるで雲のようにふわふわとして柔らかく、捉えどころのないような印象を受ける老人だった。

「君がアリアムさんかな?」

 ゼピュロスと名乗った老人が、孫をあやすような優しい声で尋ねる。

「あ、はい」

「そうかそうか。話には聞いていたが、なるほど、ナタスをその気にさせただけあって、べっぴんさんじゃのう」

 言いながらゼピュロスは、なんとも微妙な笑みを浮かべつつ、横目でちらりとナタスを見た。

 それ対し、ナタスが叱責しっせきの声を上げる。

「おい、ゼピュ――」

「妙な言い方をしないで欲しいッス!」

 だが、ナタスが『――ロス』と言い終わるよりも早く、セレスが不機嫌そうに言った。

「マスターは、そんなつもりでアリアムと一緒にいるわけじゃないッスよ」

「お、おお…… すまぬ」

 無論、ゼピュロスは冗談のつもりだったのだが、セレスは思いの外、気分を悪くしてしまったらしい。

 言い終わるや否や、表情を隠そうとしているかのように、彼はそっぽを向いてしまった。

「セレス、もういい。ありがとう」

 そんなセレスの頭を優しく撫でながら、ナタスがセレスをなだめる。

 彼も当然、ゼピュロスの言動が冗談であることくらいわかっていたが、それに対するセレスの幼げな行為がなんだかいじらしく思えたのだ。

 しかし、そんな主人とは逆にディアナが、こちらはからかうように声をかける。

「どうして貴方が機嫌を損ねるんですの?」

「だって……」

「これこれ、そこまでにしておくれ。このじいの戯言が悪かったんじゃよ。

 ともあれ、二人も元気そうで何よりじゃ」

 微妙な照れがあるのか、劣勢にあるセレスを、まるで自分もその気持ちがわかるというように、ゼピュロスが仲裁する。やはり優しげな笑みをたたえて。

 彼の温和でフワリとした雰囲気は、こんな状況であっても一瞬にして人の心を穏やかにする力があるようだ。

 かつて出遭った初老の男とは、似ても似つかない。人としての“器”のちがいであろう。

 そして、こればかりはナタスも感服せざるを得ない部分だった――そんなことは、口が裂けても言う気はなかったが。

 裏側に敬意を込めつつ、軽く言う。

「俺達はいつまで立ち話を続ければいいんだ?」

「ホ、そうじゃった。ささ、少し狭いが皆乗りなさい。話は道すがらするとしよう」



「で、話というのは? 何故、わざわざ俺をここに呼びつけた?」

 大人を満載して走る狭い車の中で、肩を縮めながらナタスがゼピュロスに尋ねた。

 ナタスたちがこの街を訪れたのは他でもない、ゼピュロスに『至急、来て欲しい』との知らせを受けたためである。理由なども一切知らされることなく、ただ『来て欲しい』とだけ。

 古い友人の頼みだけあって、不審に思いつつもそれを無視することもできず、また事情が知らされないのは、何か重大な用件であることも理解できていた。

 しかし、事情がわからないのでは行動のしようがないというのもまた、事実であった。

 その事情について、ゼピュロスは表情をそれまでの笑みから真剣な眼差しに変えて、語り始めた。

「実はこのところ、テロと思われる行為が頻発していての。この間も陸送物資の集配場で爆発事故があったところじゃ」

「それは聞き及んでますわ」

 同じく狭そうにナタスの膝の上に座ったディアナが言う。

「荷物の中に爆発物が仕込まれていたらしい、と」

「うむ。以前にも似たようなことは起きていたし、たいした被害が出るわけでもなかったのじゃが…… つい先日、とうとう死者が出てしまった……」

「死者……!?」

 その言葉に、それまで流れるように過ぎていく街並みを楽しそうに眺めていたアリアムが強く反応した。

「街外れにあった教会でな、夜遅くに火災が起きたんじゃ。そして、そこで働いていた者と、身を寄せていた孤児たち全員が犠牲になった……」

 ゼピュロスが目元を抑えながら、祈るように目を閉じて項垂うなだれて言った。

「原因も犯人もわかっておらん。じゃから“テロ”と断定することも出来んが……」

「ゼピュロス様はそうだと思っている、ってことッスね?」

「そうじゃ。わしらとしても調査は続けていくつもりじゃが、同時に何らかの結論も出さなければならぬ。おおやけには“事故”として発表する事になるじゃろう」

 そう言ってゼピュロスはナタスの方を見た。その視線を受けて、ナタスは彼の言わんとしていること全てを察する。

「それの調査に加われ、ということか。それも、秘密裏ひみつりに」

「ホ、察しが良くて助かるわい」

 さも愉快、というようにゼピュロスは笑顔で応えた。ほんの少しだけ憂いと謝罪の気持ちを込めて。

「手伝ってくれるか?」

「ああ、もちろんだ」

「ありがとう」

 “友情”――この世で最も尊重すべき人間の感情の一つであろう。それを具現したような二人の言葉のやり取りにアリアムはおろか、ディアナたちでさえも入り込める余地がないような、美しい雰囲気になっていた。

 しかし、ナタスはニヤリと口元を歪め、雰囲気もぶち壊しの一言を発する。

「その代わり、調査の合間でいいから、教団の書庫を使わせてほしい」

 車内にいた全員がそろってあきれの溜め息を漏らす。照れ隠しであろうことは誰もがわかっていたが、それにしても脱力の一声だ。

 ゼピュロスが首を振りつつ言う。

「かー、本当に風情のない男じゃのー…… まぁ、いいわい。手伝ってもらうだけ、というわけにもいかんしの」

「よし、借りは作らせておくものだな。アリアム、君も何か要望があればしておくべきだぞ。今のコイツには断ることはできないからな」

「あ、あはは……」

 その言葉がどこまで本気なのか、アリアムにはわからなくなってしまった。もはや苦笑するしかない。

「さて、それでは少しばかり頑張るとするか」


 よこしまな笑みを浮かべた少年たちを乗せ、カブトムシが軽快に街を飛んでいった。


いかがでしたでしょうか?

次回はようやく話が進展していきます。

次回もいつ投稿できるかわかりませんし、きっとボロボロになってしまうと思いますが、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。

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