本当に不死身の男
「頭に二発、心臓に二発…なのに」
恐る恐る振り返った男が最初に見たのはまっすぐに自分を見つめる、二つの月だった。そして次に、その月を背負うようにして立ちつくす一つのシルエット。立っている、というよりは凹凸を感じさせない外套をまとっているせいで地面から影がそのまま引きずり出されたように見える。
「なんでだよ、何で生きてるんだよ、ちゃんと確認したのかよ!」
猫背の男がヒステリックに声を荒らげる。もちろん、疑っているのではない。自分もあの距離で男の仕事を見ていたのだ、疑う余地などあろうはずもなかった。
「当たり前だ。俺は確かにぶちこんだし、息の根が止まってるのも確認した」
確実に銃弾が眠っている頭と心臓に直撃するのを確認したし、あれで生きていればミンチにされたって生き返る。とすれば考えられるのは、
「幽霊?」
ただ、影や幽霊ではありえない存在感は男たちの警戒心を限界まで張り詰めさせた。
「これのことか?」
リバーが左手で前髪を書きあげ、右手で外套の胸元を引きあける。
生々しい傷跡の残る額と真っ赤に染まったシャツは、間違いなく致命傷を受けた人間のそれだ。
「死なねぇんだよ。残念だったな」
「聞いてねぇよ、こんな化けもんがガードについてるなんて。割があわねぇぞ、これじゃ」
背後から聞こえるのは完全におびえ切った猫背の男だ。腰でも抜けてしまったのか、地べたに尻をついたまま無様に這いずっている。
ラシルを抱えた男が苦虫でも噛み潰したように露骨い顔をしかめる。
「久々にプロが来たと思ったらてんでバラバラの即席。しかも、どうも狙いは俺じゃなさそうだ。ってことはまさか、『本物』なのか?」
リバーの言葉に最初に反応したのは猫背の男だった。完全におびえ切った震える声がパニックのままに言葉を垂れ流す。
「しししし、しるかよ。そんなのこと俺らには、関係ないからな。世界樹の、種なんて、本物だろうと偽物だろうと、俺らはただその女をさらって」
ふっつりとそこで言葉が途切れ、思ったるい音を立てながら猫背の男が崩れ落ちた。
「プロ失格だ」
「ひでえな、仲間だろ?」
倒れた男の首筋には、長大なサバイバルナイフがどかりと突きたてられている。延髄を一撃で貫き、傷口は喉まで達しているだろう。おそらく、痛みを感じるよりも先に意識が分断されたはずだ。
「役に立たんゴミを仲間とは言わないだろう?」
「俺には関係ないけどな。俺はただ、その荷物さえ返してもらえりゃそれでいいなんて悠長なことは言わねぇ。片づける数が減っただけの話だ」
外套の内側が風に揺れるように動く。
反応できたのは金髪の男だけ。猫背の男からナイフを引きぬくために伸ばしていた手を躊躇いなく引っ込め、ただ逃げることだけに意識を集中する。
ナイフの柄が弾け、半ばで折れた血まみれの刃がくるくると宙に舞う。
反応できなかった男は何が起こったかもわからなかっただろう。ただ引きずられるようにして後ろに吹っ飛び、もんどり打って顔から倒れこんだときには真っ赤な水たまりの中に落ちていた。
「いでぇ、いでぇ~」
ようやく肩を打ち抜かれたのだと気がついた時には激痛に耐えかねて泣き叫ぶしかない。
「うるっせぇな。貫通してんだから薬塗っときゃ治るよ」
脇に抱えられていたラシルはあられもない姿で地面に捨てられている。猿轡の向こうから、うっすらとうめき声が上がった。
ゆったりとした動作でラシルを引き起こしたリバーが、目を見開きじっとこちらを見つめるラシルの猿轡を解いてやる。
「どうやら、ただ死なないだけの化け物じゃなさそうだな」
「死なないだけの化け物さ。それにしても、あんたは驚かないのか? 何もんだ?」
問いかけに男は小馬鹿にしたように笑う。
「フリード・Gだ。生き返ろうがゾンビだろうが関係ない。俺はただ殺しができればそれでいい」
淡々と言い張る様は、プロというよりもある種の狂人だ。
「実にプロらしい答えだ」
皮肉っぽく笑うリバーの口元が更に歪む。覗くのは、ぞっとするほどの狂気。
先ほどよりも少し小ぶりのナイフを引き抜きながら金髪の男はゆっくりとリバーの周囲を回りこむ。とっさに背後に飛びのいたのはどうやら失態だったようで、這うような速度で間合いを詰めながら死角を探っている。肩を打ち抜いた男はとうに戦力外だと判断され、助けを求める声も完ぺきに無視されている。
「クイックドロウは神業の域、だな」
男の眼月の光が反射し、ギラリと獣の眼のように輝く。
「ラシル、自分で帰れるか?」
幸い、手足を縛られていたわけではないので助け起こしたラシルはすぐに自分の力で立つことができたが、動き出すには少し時間がかかりそうなほどにショックを受けていた。
そのショックが、誘拐されたことに対するものなのかそれともほかの何かに対するものなのかなど、考えたくもなかった。
返事を待たずにリバーは振り返る。
「言っただろ? 死なないだけの化け物だって」
少しずつ、ラシルから距離をとる。
「なら、俺が殺してやるよ」
男の足がすり足で少しずつ間合いを詰めているのがわかる。明らかにほかの二人とは桁違いのプロ。それも、殺すことに卓越した殺すことのプロだ。
無造作に踏み出されたリバーの一歩目。
リバーが背を向けてさえ保たれていた均衡は、ナイフと銃という全く間合いの違う得物の、実に微妙な距離感覚だからこそ成り立っていたものでもある。それ以上なら絶対に銃が有利、それ以下なら圧倒的な銃の優位は崩れ去り、逆に刃渡りの短いナイフの優位性すらあり得る。そんな距離。
「馬鹿が」
速撃ちだけが取り柄、そう判断を下した。
実際、一対一の局面になったときにものをいうのは空間把握の能力と言って差し支えない。相手の得物が何なのか、自分の得物をどこまで知り尽くしているのか。そしてそこから判断される自分の死ぬ場所と相手を殺せる場所。距離。
目の前にあるのは絶対に外すはずのない間合い。手にしたナイフが、
カシャン
「!?」
はるか後ろから、乾いた金属音が響いてくる。
「せっかく死ねるかとも思ったけど、やっぱここで死ぬわけにもいかないんでな」
今度は、速さという世界ではなかった。
男に知覚できたのはナイフを振る腕の重さが、記憶の中のそれと違ったことだけ。いつなくなったのかは、全く分からなかった。
終わりというのは、実にあっけなく落ちてくる。それもまた事実だ。金髪の奥で不愉快そうにゆがんだ眼が見つめるのは、無表情に向けられた銃口の闇。その時になって初めて見たリバーの瞳にぞっとする。
「悪魔め」
すべてが罠だったと気づいた今となってはあとの祭りだった。リバーが撃った先ほどの二発は本来の速さを見誤らせるための、そのくせにかなりの速撃ちが可能であることをにおわせるだけにぎりぎりの速さ。
「化け物だよ」
トリガーに指がかかる。
「ちっ」
舌打ちと同時に男の左腕が、しなやかな動きを見せる。この期に及んで何をしようと勝敗が絶対に覆らない、それはだれよりも一番わかっているはずのプロがとったのは、
「くそったれ!」
いったい何本仕込んでいるのか、さらに一本のナイフが男の手に手品のような鮮やかさで現れ、流れるような動作で投げられる。
狙ったのは、ラシル。
男に必要だったのは一瞬だった。リバーの銃口が男から逸れ、当然のようにナイフは砕けて落ちた。パラパラと銀色の雨のように月明かりを反射したそれが地面に落ちるまでの一瞬さえあれば、
「逃げるほうを選んだか。本当にプロだったみたいだな。で、お前はどうするんだ?」
肩口を抑え、惨めなうめき声をあげてうずくまっていた男が、おびえ切った目でリバーを見上げる。唇はまっさおに血の気がなくなってぶるぶると震えていた。見るからに、雑魚の末路と言った感じだ。
「何なら始末つけてやろうか?」
ガチャリとわざとらしくハンマーを引き起こす。
と、どこにそだけの元気が残っているのかというような勢いで飛びあがり、脱兎のごとく逃げ出す。
ハンマーを寝かせた銃を外套の中にしまいこみ、手の平で額を抑える。
「痛ってぇ~。あの野郎、思いっきり四発もぶちこみやがって。一瞬まじで意識とんだじゃねぇか」
まだ痛々しく残る傷跡からは、真っ赤な血が垂れていた。
「リバーさん、その傷…」
立ちすくんだまま動けずにいたラシルがそんな声を上げる。疲れ切ったような声は、誘拐のせいではない。
「あ、あぁ。これな」
説明の必要などない。記憶の糸を手繰ればすぐに行き当たる光景だ。撃った男の言葉を信じるなら、頭に二発、心臓に二発。そしてこうも言っていた。
何故生きている。
「死なねぇんだわ、俺」
「死なない、って」
駆け寄ろうとするのに体がすくむ。
目の前にいるのは間違いなくリバーだ。あのリバー以外ではありえない。それなのに体はどうしようもなく萎縮して言うことを聞いてくれない。それどころか、言葉さえもが胸でつかえて息が苦しくなる。
言わなければいけないことがあるのに。聞かなければならないことがあるのに、そんな気持ちさえもが嘘であるかのように開いた口からは細い息だけが漏れる。
「ほんとは隠してたかったんだけどな。さすがにもう誤魔化しきかねぇな」
べっとりと血で額に張り付いた前髪を気にしてながら、傷口を指さす。すると、先ほどまで血が垂れていた傷口がもうふさがり始めていた。
「そう、死なないんだよ。脳みそぶち抜かれようが心臓をえぐられようが死なない。って言うか、死ねないってのが俺の感想なんだけどな」
あっさりと言ってのけるリバーに、再び腰の抜けたラシルがぺたりとその場に尻もちをつく。おそらく、さきほど立ち上がったのでさえ相当気を張り詰めていたのだろう。その緊張が一気に解けたところへの告白としてはパンチ力が強すぎる。
「ま、そうなるよな」
そのすぐ隣にリバーも腰をおろしてがっくりと肩を落とした。
「ふぅ…さすがにしんどい。血は足りねぇし、あたま撃ち抜かれてるからぼーっとするしな」
どこまでが冗談でどこからが本気なのかわからないが、それがラシルを気遣ってのジョークであることは間違いなかった。ただ、ラシルにそれをジョークとして受け止める余裕がないこと尾にまで気が回らなかったところを見ると、ボーっとして思考が弱っているのは本当なのだろう。
「ほんとうに」
ぽつりとラシルがつぶやくが、消え入りそうな声はリバーには届かず、「ん?」と言う間抜けな顔でリバーが横を向く。図ったようなタイミングでラシルが、
「本当に、死んだと、思った!」
小さく震える肩を必死になって抑え、身を乗り出してリバーに詰め寄る。うっかり振り向いたリバーと鼻っ面がぶつかりそうな距離にまで近づく。吐く息が震えているのがわかった。
「私のせいで、あなたが死んだって思って、本当に本当にこわかった」
徐々に最初の勢いを失った言葉は語気が弱められ、とうとういつ泣き出してもおかしくないようなか細い声になる。
「悪い。あいつらの狙いもわからなかったし、いろいろと確認したかったから」
自分を狙うのであれば殺気は自分に向けられ、そのための手を打ってくる。しかし連中がとったのは対リバー用のものではなく、もっとほかのものを得物として想定したような動きだった。それが何であるのかを確かめると同時に、一つのあたりをつけた。
おそらく狙いはラシルだろう。だとすればラシルの何を狙っているのか。
その答えはおそらく自分の疑問にも回答を与えてくれるはずだと直感しながら、当然のように邪魔ものの自分を排除しようとする男たちにも気付かないふりを決め込んだ。
「で、予想は大当たりってわけで、収穫はあったわけなんだが」
ボロボロと、大粒の涙がこぼれている。ラシルの黒目がちな瞳が、あふれる涙でゆがんで見える。
「そんなことのために?」
ラシルの声は、涙とは裏腹に張りのある穏やかな声だった。
「そんなことのために、自分を危険にさらしたの?」
「まあ、俺は死なねぇからなぁ」
「そんな問題じゃ、ない。そんな、問題じゃ」
少しずつではあるが、ラシルの言いたいことがわかったリバーの顔に動揺が浮かぶ。
自分の命など、ただの盾ぐらいにしか考えていなかった。傷はすぐにふさがる。多少の痛みに耐えさえすればこれほど囮に向いたものもない。事実それで今回は思うとおりに事が運んだ。知りたいこともある程度は情報を得ることができた。
「傷はふさがるし、何度も言うけど俺は絶対に死なない体なんだ。切られようが撃ち抜かれようが、それこそバラバラにされようが」
もちろん、最後のは大げさだったしそんな経験はない。ただ、たぶんそれでも死なないだろう自信はあった。
「そうじゃない」
ラシルが大きく首を振る。もう涙を流してはいない。
「私は、怖かった。あなたがいなくなることが。本当に怖かった。私のせいでいなくなってしまった。それがどんなに怖かったか…」
「悲しんでくれるのか?」
リバーの突拍子もない一言に、ラシルは押し黙り、必死に力んで口をへの字に結んでいる。そうしていないとまた涙があふれてしまうのだろう。
そして、ゆっくりと頷く。
リバーの手が少し乱暴にラシルの頭に乗せられる
くしゃりと赤みがかった亜麻色の髪が撫でられたかとおもうと、その手がふと止まる。
「悪い。俺の独断だったが、驚かせたな」
「本当に、驚いた」
ようやくラシルの声から緊張や気負いが消える。まだまだ普段通りとは言い難いが、それでも、わざとらしくこぼしたため息にリバーからは苦笑が漏れる。
「ばかっ!」
ラシルが、信じられないような声を上げる。
夜中の街に何重にも不名誉な叫びがこだまする。ただ、なによりもラシルの口をついてそんな言葉が出たことのほうが驚きだった。
「痛いんでしょう?」
「ああ。不死身っても怪我も病気もすれば治る過程は普通の人間と同じだからな」
とはいうものの、その治癒の速度に触れないのは、やはりリバーにとってこの話題はあまり嬉しいものではないからだ。
「だったら」
頭の上に載せられたリバーの手に、ラシルが小さな両手を重ねる。
「もう、あんな真似しないで。死ななくても、あんなのは見たくない」
手の甲に伝わる穏やかな温度に、リバーは久しく忘れていた人のぬくもりをかみしめてしまう。
誰かに心配される。誰かが自分のことで悲しい思いをする。そんなことを考えない世界でずっと生きてきたリバーにとっては、逃げ出したくなるような温度だ。
「わかった」
それでもその手は、首を縦に振らせるだけの魔力を持っていたように思う。
振り払って逃げることも容易だし、自分の稼業や目的を考えればそうするべきだと思った。これからもずっと自分は一人のはずなのだ。
「ばか」
ラシルが半ベソをかいたような声で鼻をすすりながらそんなことを言うもんだから、リバーには「ばがぁ」と聞こえて思わず噴き出しそうになる。
「あ~ぁ、わかったって言っちまったよ」
おどけるようにくるりと踵を返し、引き抜いた右手でバリバリと頭をかきながら出来の悪い劇の登場人物のようにわざとらしく歩く。
「そんなことより、ほんとに本物だったんだな」
かなり強引にリバーが話題をねじ曲げる。それは照れ隠しであると同時にリバーが本当に切り出したい話題だ。
「そうよ」
先ほどと変わらない調子でラシルの声が背中に聞こえるが、心なしか淡々とした口調に聞こえるのは主観だけのせいではないはずだ。
「まだ信じられない気分だ」
「不死身のあなたがいるんだから、これがあってもおかしくないって言ったら?」
風がないことに気がつく。
月が出ている以外には明かりもほとんどなく、人の気配が全くないこの時間では時が本当に動いているかどうかさえ怪しくなる。きっと、この瞬間は時間さえもが止まったのだと思う。
先ほどラシルが使った魔法は自分にイエスと言わせる魔法だった。では今度の魔法は何だろうか、そう考えたときにリバーの肩は震え、いつの間にかクツクツと声に出して笑っていた。
「違いない」
まさかあのラシルが皮肉を言うなどとは考えてもみなかった。
そりゃそうだ。自分の不死身という異常性を差し置いて世界樹の種の実在を疑って、果てにはこんな茶番まで演じて確認している。
ラシルにしてみればおそらくこんな体の自分のほうが信じられないに違いない。
「なんでもありだな」
「そうよ」
ここで、リバーが言うか言うまいか迷っていた一言を口にする。
「あんた、実は意外と図太くないか? まさか馬鹿なんて言われると思わなかった」
皮肉のつもりだったが、ラシルにとってはむしろこちらのほうが素で、今までのほうが猫をかぶっていたのだというように、ドンとリバーの背中を突き飛ばす。
思えば、今朝がたの食堂での態度は実に堂々としていた。それだけではない。所々で飛び出した一言は実に的を射ていたように思うし、会話のテンポも悪くはない。そしてなにより、
「セフィが来たときに、堂々としすぎてたしな」
「馬鹿にバカって言ったんだもん」
それはラシルにとっての降参だったのか、それとも宣戦布告だったのか。たぶんどちらでもなかったしどちらでもよかった。
「馬鹿にバカって言えない世の中じゃ、つまらんからな」
生きることだけを考えていたのかもしれない。
謙虚に、真面目に、真摯に、遠慮がちに、眼を伏せて言葉を選んで肩をすぼませていなければ旅どころか通り一つ歩けない。そんな旅をしてきたラシルにとって、人との接点と言うのは常に自分を押し隠す場所だった。笑顔は常に愛想笑いで言葉は相手のことを第一に選んだ。それが嘘であるか否かは二の次だった。極力うそにならないように言葉を選んでいたこともあった。いつの間にかそうすることが当たり前になっていた。
権謀術数とまではいかなくとも他人の欲望や嘘の海を泳ぎきるために必要なのは、いつでも正直さやまっすぐな気持ちではなく他人を出しぬき騙す技術だった。
「ほんと、変な人」
それを、鼻で笑い飛ばす。
「お互いにな。で」
リバーがおどけるように、突き飛ばされたままとことこと歩き続け、くるりとその場で回ってみせる。月の明かりをスポットライトに踊るピエロのようだ、そう思ったラシルはわざとらしく小首をかしげて見せる。
そんな仕草を、いつかはしてみたいと思いながら他人を眺めていた自分を思い出した。
「どうするんだ?」
「どうする、とは?」
リバーは動きこそコミカルに装っているが、目が笑っていない。
「ここも、一つの分岐点だ」
道は二つに一つ。
「もちろん」
いつの間にかラシルの中では答えが決まっている。そのことが意外でもあり、当然のことを今更という気もしていた。リバーがどう考えているのかは底の見えない瞳が物語っている。
選択権を持つのはラシル。
口を開く。
「明日、荷物を探しに行かないとでしょ?」
これでもかというほどの演技をしてやったラシルは満足げに胸を張り、どうだという目を向けてやる。
「仰せのままに」
相変わらずへたくそな顔で笑いながらリバーは肩をすくめる。
少しだけ、この旅が終わることを惜しんだことは絶対にラシルには内緒だ。




