巨匠ウィリアム・ワイラーの金字塔『女相続人』
巨匠ウィリアム・ワイラーの金字塔『女相続人』
財産目当てだと分かっていても、愛する娘が望むなら結婚を認めるべきなのか。この究極の問いを突きつけるのが、1949年の名作『女相続人』です。
映画のあらすじ
資産家の一人娘であるキャサリンは、定職のない美青年モリスと恋に落ち、結婚を望みます。しかし、厳しい父は男の本性が財産狙いであると見抜き、猛反対。二人は駆け落ちを計画しますが、娘が相続権を放棄すると知った途端、男は姿をくらましてしまいます。数年後、父が他界し莫大な遺産を手にした彼女のもとへ、再びあの男が姿を現すのですが……。
作品の背景と深み
本作はブロードウェイで大ヒットした舞台劇の映画化であり、文豪ヘンリー・ジェイムズの小説『ワシントン広場』を原作としています。単なる恋愛悲劇に留まらず、親子の確執や人間の尊厳、そして「愛の欠如」がもたらす冷徹な変化を描ききった心理ドラマの傑作です。
キャサリンは、父が自分の幸せを願って反対しているのではなく、自分に魅力がないと見下していることに気づき、絶望します。父の死に目にも会わず、一生独身を貫く決意をした彼女の孤独な変貌は、観る者の心に深く突き刺さります。
主演オリヴィア・デ・ハヴィランドの圧倒的な演技
この作品で二度目のアカデミー主演女優賞に輝いたオリヴィア・デ・ハヴィランドの演技は見事というほかありません。純真で内気な娘が、裏切りを経て氷のように冷ややかな貴婦人へと変わっていく様を完璧に演じ分けています。
彼女は東京の聖路加国際病院で生まれたことでも有名で、『風と共に去りぬ』の慈愛に満ちたメラニー役とは正反対の役どころに挑みました。また、実の妹であるジョーン・フォンテインもアカデミー賞女優であり、ハリウッド史に残る輝かしい姉妹としても知られています。
作品を彩るキャストとスタッフ
相手役のモリスを演じたのは、当時「絶世の美男子」と謳われたモンゴメリー・クリフト。彼の甘いマスクと、その裏に潜む身勝手な若さの表現が、物語の残酷さを際立たせています。厳格な父親役のラルフ・リチャードソンも重厚な演技を見せ、名匠ウィリアム・ワイラーの完璧主義な演出によって、重厚な心理サスペンスに仕上がっています。
復讐と自立のラストシーン
数年後、再び現れたモリスが「今でも君を愛している、やり直そう」と熱烈な求愛をしてきます。キャサリンは一見それを受け入れたかのように振る舞い、今度こそ二人で駆け落ちをする約束を交わします。
期待に胸を膨らませて再び荷物をまとめ、家の前で待つモリス。彼は扉を激しく叩き、彼女の名前を叫び続けます。しかし、キャサリンは冷徹な表情でその音を聞き流し、一歩一歩、静かに階段を上っていくのです。
「なぜ、そんな残酷な真似を」と問いかける叔母に対し、彼女は言い放ちます。「あの男は、私の心に傷を刻む名人だった。今度は、私がその技術を彼に教えただけよ」と。
かつての臆病で純真な娘はもうどこにもいません。愛を捨て、独りで生きる道を選んだ彼女の背中は、復讐を遂げた満足感と、二度と誰にも心を開かないという冷酷な決意に満ちていました。扉を叩く音だけが空虚に響く中、彼女が手にランプを持ち、暗い家路を上っていく幕切れは、観る者の心に震えるような戦慄を残します。
基本情報
原題:The Heiress
監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ヘンリー・ジェイムズ『ワシントン広場』
出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド、モンゴメリー・クリフト、ラルフ・リチャードソン
上映時間:115分




