蒸発シリーズ 『蒸発の男』 第六章 蒸発屋のルール
蒸発シリーズ
『蒸発の男』
第六章 蒸発屋のルール
女は人だかりの外から、そのアパートを見ていた。
古い二階建ての建物だった。入り口には黄色いテープが張られ、警官が数人立っている。野次馬たちが小声で話していた。
「部屋にいないらしいよ」
「また失踪だって」
女はそれ以上近づかなかった。
もう結果はわかっていた。
女は通りを少し離れ、暗い公園のベンチに腰を下ろした。街灯の光が弱く、周囲はほとんど見えない。
カバンから、さっきの紙を取り出した。
名前が三つ。
一つ目と二つ目には、赤い線が引かれている。
残っているのは、あと一人。
女は携帯電話を取り出し、さっきの番号にかけた。
すぐに男が出た。
「確認したか」
女は短く答えた。
「二人目、消えた」
電話の向こうで、しばらく沈黙が続いた。
男は低く言った。
「黒いコートだな」
「間違いない」
女は紙を見つめた。
「三人目も、時間の問題」
男はため息のように言った。
「蒸発屋のルールだ」
女は黙っていた。
男は続けた。
「三人で一組」
夜風が、公園の木を揺らした。
「最初の一人は、試し」
男の声は冷静だった。
「二人目で、確認」
女はゆっくり聞いていた。
「そして三人目で」
男は言った。
「仕事は終わる」
女は小さくつぶやいた。
「三人目は、いつ?」
男は答えた。
「早い」
女の視線が紙の上の最後の名前に落ちた。
「黒いコートは、必ず同じ町で終わらせる」
女はその名前を見つめた。
さっきまで知らなかった名前だった。
しかし、今は違う。
女は静かに言った。
「場所、わかった」
「どこだ」
男が聞いた。
女は紙を折りたたみながら答えた。
「駅の近く」
男は少し間を置いて言った。
「急げ」
女は立ち上がった。
公園の外に出ると、夜の街の灯りが広がっていた。
遠くに駅のネオンが見える。
女は歩き出した。
そのときだった。
通りの向こうに、一人の男が立っていた。
街灯の下。
長いコートを着ている。
黒いコートだった。
女の足が止まった。
男は動かない。
顔は影になって見えない。
しかし、女はわかった。
あの男だ。
黒いコートの男。
蒸発屋。
男はゆっくりと顔を上げた。
そして、かすかに笑った。




