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フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


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650/655

Nの行方

短編小説の形で、少し膨らませてみます。


---


夜の編集室は、かつてのような騒がしさがなかった。

大型モニターの光だけが、部屋の空気を青く染めている。


「国民の半分が、もうテレビを観ていないらしい」


若いディレクターの村上が、統計資料を机に置いた。

部長の永井は、老眼鏡をずらして紙を見た。


「半分か……」


紙にはこう書かれていた。

**テレビ視聴率、世帯ベースで五〇%を割る。**

そして十年後の予測。

**視聴率四〇%。**


「つまり、六割の人間はテレビをつけない時代になるわけだ」


永井は、ゆっくり椅子にもたれた。


「わがNは受信料で成り立っている。だが視聴者が減れば、払う人も減る。すでに経営は赤字だ」


村上は苦笑した。


「若い人、誰もテレビ持ってませんよ。スマホだけです」


「知っている」


永井は窓の外を見た。

夜の街では、ネオンよりもスマホの光のほうが多い。


「昔はな、夜八時になると日本中が同じ番組を観ていた」


「昭和ですね」


「そうだ」


永井は静かに言った。


「だが今は違う。世界中の動画が、指一本で見られる」


村上は、ふと口にした。


「Nも、もうテレビ局じゃない形になるんじゃないですか」


「どういう意味だ?」


「配信会社です」


永井は少し考えた。


テレビ塔。

中継車。

巨大スタジオ。


すべてが、時代遅れの装置に見えてくる。


「受信料の放送局から、配信の会社へか……」


村上は言った。


「そうしないと、十年もたないと思います」


沈黙が流れた。


モニターでは、深夜ニュースが流れている。

だが編集室には、それを見ている人間が二人しかいない。


永井は、小さくつぶやいた。


「テレビの終わりを、テレビ局の中で見ているわけか」


村上は肩をすくめた。


「歴史の現場ですね」


そのとき、モニターの音声がふっと小さく聞こえた。


――本日の視聴率は、過去最低を更新しました。


永井は立ち上がり、テレビの電源を切った。


編集室は、静まり返った。


そして二人とも、無意識にポケットからスマートフォンを取り出していた。


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