カオスの母星(7)空中浮遊の数式と、未確認の知性
空中浮遊の数式と、未確認の知性
三池大学の大講義室。
そこには、期待と戸惑いが入り混じった独特の熱気が立ち込めていた。
「おい、マジであの人、例のバズってる教授かよ」
「金髪にあのネイル……UFOより目立ってんじゃん」
学生たちの視線が教壇に注がれる中、私はポケットから細長い銀色のペンを取り出した。最新型の「空間描画プロジェクター」――通称、電子ボルト・ペンだ。
私が空中でペンを走らせると、何もない空間に青白い光の文字が浮かび上がった。
『エネルギーの転換』
ホログラムの文字がゆっくりと回転し、学生たちの頭上で淡く発光する。ざわつく教室を、私はその光の粒子越しにゆっくりと見渡した。
「この大牟田はね、かつて『燃える石』――石炭を掘り出して、日本中の夜を明るくした街。地下数百メートルの暗闇の中で、先人たちは命がけでエネルギーを掘り当ててきた。……でもね、今の時代、一番掘り出すのが難しいエネルギーは何だと思う?」
一番前の席で、スマホの手を止めた男子学生が呆気に取られて見上げている。
「……その、浮いてる光ですか?」
私はニヤリと笑い、空中の文字を指先でフリックした。文字が弾け、無数の星屑のような光となって教室中に広がっていく。
「違うわ。それは、あなたたち自身の内側に眠っている『知的好奇心』というエネルギーよ」
私はペンを回し、窓の外に広がる大牟田の空を指差した。
「かつてこの街の人たちが地の底を見つめて石炭を掘り出したように、今度はこの教室で、空の向こう……何万光年も先の宇宙からエネルギーを掘り出すの。炭鉱の底も、宇宙の果ても、物理学の目で見れば同じ法則で繋がっているんだから」
教室中を漂う光の粒子が、学生たちの瞳に反射する。
「私の講義に、古いノートや鉛筆はいらない。必要なのは、自分という存在が星の爆発から生まれたという事実を、誇らしく思う心だけ。……いい? 誰かに『お前なんて価値がない』と言われても、それは観測ミス。あなたは、宇宙規模のポテンシャルを秘めた、未確認の発光体なんだから」
一瞬の沈黙の後、誰かが小さく拍手を始めた。それが地鳴りのような拍手喝采となり、講義室を包み込む。
「さあ、始めようか。UFOより不思議で、石炭より熱い、最新の宇宙講義を。……ピース!」
学生たちの目に、小さな、でも消えない火が灯った。
それは、かつて暗闇の底で震えていた私に、未来の私が届けたかった希望の光そのものだった。




