カオスの母星(6) 九州のへそ
海外からのメールを読み終えたとき、私の目から自然と涙がこぼれた。
自分の存在が、ようやく正しい数式で解かれたような、深い安堵だった。
数週間後、私は福岡県大牟田市の地に立っていた。
九州の南北を繋ぐ結節点。かつて炭鉱の熱気で日本中を照らし、今もなお、不思議な光――UFOの目撃談が絶えない、磁場の強い「九州のへそ」だ。
「あき先生、お待ちしていました。よくこの三池大学へ来てくださいました」
迎えてくれたのは、街の歴史を背負った教員たちだった。
ジムの受付でもなく、ビルの地下でもない。教壇という、かつて私が最も愛し、そして最も恐れた場所がそこにあった。
「私のような、ブランクがあって、おまけにこんな派手な格好をした人間を、本当に受け入れてくれるんですか?」
私の問いに、年配の教授は、有明海の潮風に目を細めながら穏やかに笑った。
「この街はね、かつて地の底からエネルギーを掘り出し、この国の夜を明るくしてきたんです。今度は、あなたの知性で学生たちの心に灯をともしてほしい。派手な金髪? むしろ大歓迎ですよ。ここらじゃ夜空に飛ぶ未確認飛行物体の方が、よっぽど派手な光を放っていますから」
私は深呼吸をした。
肺を満たすのは、湿り気を帯びた潮の香りと、力強い大地の匂い。
私の新しい仕事は、学生たちに宇宙を教えること。
そして、かつての私のように、自分の価値を見失いかけている「迷子の子星たち」に、その輝きを思い出させることだ。
研究室の窓から、夕日に染まる有明海の地平線が見える。
私はスマホを掲げ、大牟田の空を背景に、これまでで一番晴れやかなピースを作った。
「準備はいい? 宇宙は、いつだってあなたの味方だよ」
私の人生という銀河に、新しい太陽が昇り始めていた。




