ゴダールとの絶交~フランソワ・トリュフォー監督の恋 その6
トリュフォーの「アメリカの夜」に対してゴダールは辛辣な手紙を寄越す。
昨日、きみの「アメリカの夜」を見たよ。きみは嘘つきだ。
しかし、誰もそうは言えないだろうから、わたしがはっきり、きみは嘘つきだと言ってやろう。
これは「ファシスト」よばわりするような単なる悪口ではない。
批評だ。批評精神の欠如への批評だ。
と、自分の新作のために制作費を出資しろという高圧的な要求の手紙であった。
トリュフォーはついに、覚悟を決めてすべてをさらけ出す長い返事を書くことになる。
まずトリュフォーが憤ったのはジャン=ピエール・レオーの扱いについてだった。
同封されていたレオーへの手紙はそのまま送り返すとし、
最近仕事のいざこざなどで落ち込んでいたレオーに対して
「他人の尻馬に乗って彼をこきおろし、
自分よりも十五歳も年下の彼から脅迫さながら金をくすねようとしたり、
実際、きみの何本かの作品で主役を演じた彼のギャラが百万フラン以下とはひどすぎる」
とゴダールの仕打ちを非難する。
そして過去にも遡り、「男性・女性」を見て、初めてジャン=ピエールがキャメラの前で
不安と苦痛を感じていることに気がついた。
映画の出来はよかったし、彼の演技もよかった。
だが最初のカフェのシーンは彼を友情とともに見まもる者では、
昆虫を観察する学者の視点のようで息がつまりそうだった、と当時の違和感を書く。
このように現在はもちろん、友情ゆえに抑えてきた過去のゴダールの傍若無人な振る舞い
の思いのたけをぶつける。
「自分のことを犠牲者だといわんばかりだが、きみはいつも自分のやりたいことを、
やりたいときに、やりたいようにできるよううまく立ちまわっている」と、
ゴダールにとっては最も耳の痛い批判をした。
この手紙を最後に、二人は和解することがないままに、トリュフォーは死を迎える。