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フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


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大好きな映画「めぐり逢い」より 女性を決して一人にしてはならない

大好きな映画「めぐり逢い」より


女性を決して一人にしてはならない


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豪華客船のデッキ、デボラの後を追い、ケーリーは「待って、困ってるんだ」と声をかける。ここから、彼の一流のナンパが始まるのだ。


デボラは冷ややかにあしらう。


「遊びが過ぎるのよ。自業自得」


「相談を」


「私はだめ、聞くより話したいクチで」


「正直な顔だ」


そう言われ、鏡で自分の顔を見たデボラは「この顔が?」とおどけてみせる。


「信用できるね」


「まあね」


「頼む」


「船長も正直そうよ、彼に話せば?」


「僕の船室へ」


彼の魂胆を瞬時に読み取ったデボラは、「私の船室なら」とさらりと言ってのけ、彼の口説きを鮮やかにかわした。


船室に入ると、彼女は釘を刺すように言った。


「私の母の教えなの、満月の夜は、男性の部屋に入るなって」


「それは、感心だ」


ケーリーはこの長い船旅の退屈を紛らわすため、二人で楽しまないかと提案する。しかし、デボラが黙って指差した先には、一人の男性の写真立てがあった。


「お兄さん?」


「違うわ、私の婚約者。私は一途な女よ」


かたくなに拒否するデボラ。ケーリーは持て余した手持ち無沙汰を紛らわそうと、シガレットケースからタバコを取り出す。だが、マッチがない。


タバコをくわえたまま、彼が「火がない」と漏らすと、デボラはこう言い放った。


「ガブリエラの、お熱い文句で、火をつけたら?」


そんな火花を散らすような二人も、長い船旅の間に、一日一日と深く結ばれていく。


だが、どんなに婚約者と深い愛で結ばれていたとしても、一週間以上の長い航海だ。女性を決して一人にしてはならない。


かつて、製作者ロバート・エヴァンズはこう語った。


自身が『ゴッドファーザー』の製作で死闘を繰り広げている間、妻のアリ・マックグローは『ゲッタウェイ』でスティーヴ・マックィーンと共演していた。撮影の間、彼は妻に一度も会いに行かなかった。


結果、アリはマックィーンと恋に落ち、去っていった。


「女心が読めるなどという男は何もわかっちゃいない」


一度でも撮影先にゆくべきだったと、エヴァンズは今も後悔している。


銀幕ノート



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