イングリッドバーグマンは主役映画「カサブランカ」を晩年まで観たことがなかった
「この映画は、いつまでも完成しない失敗作だと思っていました」
映画カサブランカの上映が終わった直後、ステージに上がったイングリッド・バーグマンが放ったこの一言は、会場を埋め尽くしたファンを大いに驚かせました。
世界中の人々が史上最高の恋愛映画だと信じて疑わなかった名作を、主演女優本人がずっと「ダメな作品」だと思い込んでいたのです。彼女は続けて、こう言いました。
「本当、いい映画なのね」
この正直すぎる感想に、会場は大きな笑いと温かい拍手に包まれました。
なぜ、大女優バーグマンは自分の代表作をそれほど低く評価していたのでしょうか。その理由は、あまりにも過酷で混乱を極めた撮影現場にありました。
実は撮影当時、脚本はまだ完成しておらず、監督ですら結末を決められないままカメラを回していました。バーグマンは監督に「私はどちらの男性を愛しているの?」と尋ねましたが、返ってきた答えは「その中間を演じてくれ。結末はまだわからないんだ」という無責任なものでした。
役の心さえつかめないまま、手探りで演じ続けなければならなかった彼女にとって、カサブランカは単なる混乱した仕事の記憶に過ぎませんでした。彼女は長年、この映画を「迷いながら演じた未完成の失敗作」だと思い込み、まともに見返そうともしなかったのです。
しかし晩年、ロンドンの回顧展で初めて客観的に作品を観たとき、彼女は衝撃を受けました。そこには、混乱の中で生まれたはずの奇跡的な美しさと、切ない愛のドラマが完璧に映し出されていたからです。
「自分が出ている映画を観て泣くなんておかしいけれど、皆さんがなぜこれほどまでにこの作品を愛してくれたのか、ようやくわかった気がします」
若き日の苦い記憶が、数十年を経てようやく「永遠の名作」として彼女自身の心の中で完結した瞬間でした。
映画史に残るヒロインが、誰よりも遅くその作品のファンになったというエピソードは、今も語り草となっています。




