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フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


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キャサリン・ヘプバーンがクランクアップに監督につばを吐いた理由

キャサリン・ヘプバーンがクランクアップに監督につばを吐いた理由


「私の仕事はこれで終わりね?」

映画『去年の夏 突然に』の撮影最終日、最後のカットを撮り終えた瞬間だった。

米選出「最も偉大な女優」1位のキャサリン・ヘプバーンは、監督に歩み寄った。

そして、言葉による罵倒ではなく、ただ一言も発さずに監督の顔へつばを吐きかけたのだ。

これは、独裁的に振る舞い、仲間を追い詰めた監督に対する、彼女なりの「絶縁状」だった。


彼女の生き方は、潔いほどに「完全な男」である。

頑固で、媚びず、権力に屈しない。

だが、その強さの根底には、自分よりも他者を想う深い「愛」があった。

精神的に病んでいた共演者を執拗に攻撃する監督に対し、彼女は静かに怒りを燃やした。

撮影を投げ出さず完璧に遂行したのは、プロとしての誇りがあったからだ。


仕事には徹するが、魂までは売らない。

「愛されること」を求めるより、「愛すること(守ること)」に命を懸ける。

彼女のその姿勢は、名作『旅情』で見せた切ない別れのシーンとも重なって見える。

列車の窓から身を乗り出し、溺れそうな恋を振り切って自立へと戻っていくあの瞳。

そこには、自分の運命を誰にも委ねないという強烈な自負が宿っている。


オスカーを4度手にし、米映画界の頂点に立ちながら、授賞式には目もくれない。

「スカートはあなたの葬式用に取ってある」と言い放ち、一生をパンツスタイルで通した。

そんな彼女が吐いたつばは、理不尽な世界へ突きつけた「気高き正義」だったのだ。

彼女の顔を「好きになれない」と言う人もいるだろう。

けれど、その不器用で真っ直ぐな生き様に、私たちは性別を超えて惚れてしまう。



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