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フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


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恐怖を笑いに変える幽霊映画

恐怖を笑いに変える幽霊映画


1. 時代背景と検閲コードの影響


1930年代中盤、アメリカ映画界は大きな転換期を迎えました。1934年に「ヘイズ・コード(映画製作倫理規定)」が本格的に施行されると、それまで比較的自由に描かれてきたホラー映画は大きな制約を受けることになります。ヘイズ・コードは特に性的暗示や残虐描写に厳しく、血や死体を露骨に見せるシーン、悪魔的儀式や怪異を強調する演出は制限されました。こうした検閲は「恐怖の幽霊」を真正面から描くことを難しくし、ホラー映画は萎縮を余儀なくされていきました。


しかし一方で、この規制は映画人たちに別の創造的な方向性を与えることになります。死後の世界や幽霊をストレートな恐怖ではなく、軽妙なファンタジーやユーモラスな存在として描くことで、検閲をすり抜けながら観客を楽しませる道が開けたのです。いわば、恐怖を和らげ笑いに転化することで新たなジャンルを成立させたと言えます。こうした流れは『Topper』や『Here Comes Mr. Jordan』など、後の“幽霊コメディ”の隆盛につながっていきました。


2. 『Topper』シリーズのヒットの重要性


1937年公開の『Topper(トップハットの中の幽霊)』は、この潮流を決定づけた作品でした。裕福で堅物な銀行家トッパーと、交通事故で死んだ享楽的な若夫婦の幽霊との騒動を描いたこの映画は、恐怖や悲哀ではなく、爽快で機知に富んだ笑いを前面に押し出しました。


当時としては画期的な特殊効果も、作品の成功を大きく後押ししました。幽霊が「姿を現したり消えたり」「物を自在に動かす」といった演出は、当時の最新技術で巧みに実現され、観客はそれを恐れるよりもむしろ楽しんだのです。これにより幽霊という存在は「不気味さ」より「愉快さ」を象徴するものへと転換しました。


さらに物語構造そのものにも新しさがありました。生真面目すぎて退屈な人生を送るトッパーと、自由奔放な幽霊夫婦との対比は、スクリューボール・コメディ特有のテンポと皮肉を帯びた笑いを生み出し、観客に強い印象を残しました。この成功は、幽霊を登場させるファンタジー・コメディというジャンルを確立し、以後の作品群に大きな影響を与えることになります。


要するに、ヘイズ・コードによる制約が逆説的に新たなジャンルの扉を開き、『Topper』がその旗手となったことで、1930年代後半から1940年代にかけてハリウッドには「恐怖を笑いに変える幽霊映画」という独自の文化が根付いたのです。


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