告白第4話〜出社するな、給料は払う・・・
告白第4話〜出社するな、給料は払う・・・
会社から休業を命じられたのは、五十六歳のときだった。営業成績が悪化した、というのが表向きの理由だが、実際には業界全体が崩れていくのを肌で感じていた。日本のIT業界も、家電業界も、半導体分野も——次々に韓国へと技術と案件が流れていった。
とくに痛かったのは、二次派遣の禁止である。技術者を大手ソフト会社に紹介することで成り立っていた会社は、根本から業態を揺るがされた。韓国人の技術者を多く抱えていた派遣企業も、こうした制度変更によって立ち行かなくなり、倒産していった。
見えない何かの力が、日本を徐々に貧しくしている。そう感じた時期だった。そしてその背景に、“鳩ポッポ”の存在があるとするなら、それは偶然では片づけられない。事実、韓国企業、とりわけサムスンはこの時期から急激に台頭していった。
そんな最中、会社はぼくに休業を命じた。出社しなくていい、給料は国からの助成金で支払われるという。
普通、そのような処置をされたら会社を辞めるだろう。だが、会社は明言こそしなかったものの、「自主退職してくれ」と暗に伝えていた。わかっていた。だが、ぼくは考えた。そうか、だったら——いなおってやろうじゃないか。
会社が「来なくていい」と言っている。給料は出る。なら、あとは遊ぶだけだ。遊んで、笑って、もう会社の顔色をうかがわない人生を過ごしてやろう。そう心に決めた。定年までの時間を、自分の好きに生きてやろうと。
苦笑いひとつで、すべてを呑み込むような午後だった。あの日から、ぼくの人生の時計は別のリズムで動き出したのだ。
(小説家になろう、フェイドアウト断章)




