告白 テレビドラマの現場に
九月七日から「帰休」となった。つまり出社は不要、代わりに休業手当が支給される。
だが、その金額は通常の給与の半分以下だった。
会社はリーマンショックの影響をもろに受け、不景気の波に飲まれていた。
国からは「緊急雇用調整助成金」が支給され、その資金を使って社員たちは“休ませられる”ことになった。表向きは“雇用維持”という姿勢だが、実際には「社員の首切り」が始まったわけだ。
IT業界全体が、助成金を盾に人を削っていくような風潮に染まり、同業の仲間たちは次々に会社を去っていった。
そんな中、ぼくはひとつの作戦に出た。残っていた40日分の有給休暇をフル活用することで、まずは満額の給与を受け取るというものだ。会社の上層部は難色を示したが、有給は労働者の権利である。最終的に社長が認めざるを得なかった。
有給が明けた後は、帰休中の生活が始まった。給与は半分以下。その代わり、アルバイトをすることは会社公認だった。どうせ流れに身を任せるなら、今しかできないことをやってみよう。そう思った。
警備保障の夜勤、居酒屋の皿洗い、そして映画『苦役列車』のような日雇い労働。
どれも社会勉強としては濃すぎる経験だったが、不思議と心は軽かった。
そして、昔から好きだった映画の世界を覗いてみたくなった。
ドラマ制作の現場を見てみたい——そんな思いで、エキストラの仕事に応募した。
11月17日。ネットでエキストラ事務所を探して申し込むと、すぐに丁寧なメールが届いた。
「当社はドラマ、映画、CMなど多くのエキストラを募集しています」「ルーキーズ」「メイちゃんの執事」などにも出演実績あり、とのこと。説明会を兼ねた面接に来てくださいという案内文を読みながら、なにか新しい扉が開きそうな予感がした。
ただの“首切り助成”で終わらせるには、あまりにももったいない。むしろこの状況だからこそ見えた景色がある。あの日々の奇妙な自由こそが、今につながる時間だったのかもしれない。