北野恋愛映画Dolls(6) 総括、恋は精神病
## 映画『Dolls(人形)』についての考察
なぜこの映画のタイトルが『Dolls(人形)』なのか。
それは、現代浄瑠璃をモチーフにした三つの物語が描かれているからではないでしょうか。
たとえば、ヤクザの親分に両親を殺された車椅子の青山が、まるで人形を操るかのように登場人物たちの運命を動かしているようにも見えます。三話に共通しているのは「恋狂い」というテーマです。恋に囚われ、心を病み、常軌を逸してしまう登場人物たち。恋心が行き過ぎると、精神的に異常な状態に陥る。恋とは、ある種の精神障害なのかもしれません。
「恋」という字は、「心が変になる」と書きます。恋することと狂うことは、表裏一体。錯覚であり、精神病とも言えるでしょう。何かを強く好きになることは、心の均衡を崩す行為でもあります。特に恋愛感情は、その強さと不合理さゆえに、逸脱の度合いが大きく、「精神病」と呼べるほどです。
恋心を抱くと、恋人のことばかりを考えてしまう。いわゆる「恋は盲目」です。恋愛感情は脳内で相手への思いを一時的に完全に独占し、失恋によって自殺に至る人もいます。そうした人は、生死の判断すら恋心に支配されており、まさに精神病的な状態と言えるでしょう。
映画『めぐり逢えたら』では、ひと目ぼれについて精神科医がこう語っています。
> 「誰かに惹かれるということは、
> その人の潜在意識が相手の潜在意識に無意識のうちに惹かれる。
> 運命の出会いとは、二人の神経症患者の慰め合いだ。」
この言葉は、北野武監督の恋愛映画『Dolls』にも通じるものがあります。
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## 『Dolls』に似た作品
### 『道』(フェデリコ・フェリーニ監督/イタリア映画)
『Dolls』の第一話に似ていると感じます。好意を寄せていた精神障害者がザンパーノに撲殺され、ジェルソミーナは心を病みます。ザンパーノは彼女を道端に捨てて逃げ去ってしまう。愛によって破滅する物語です。
### その他の類似作品
- **『暗くなるまでこの恋を』**
- **『嘆きの天使』**
いずれも、恋に囚われて身を滅ぼす男たちの物語。
### 『髪結いの亭主』(パトリス・ルコント監督/フランス映画)
『Dolls』とは直接関係しませんが、ここにも狂った愛があります。
髪結いの妻は、自分が老いて亭主に捨てられることを恐れ、愛されているうちに川に身を投げて自殺します。
「あなたが心変わりして不幸になる前に死にます」と手紙を残して。
この行動は、映画『めぐりあう時間たち』に登場する作家バージニア・ウルフの入水自殺にも通じます。
### その他の例
- **『草原の輝き』**:恋人の浮気にショックを受けて河に身を投げ、助かるが精神を病む
- **『真夜中のカーボーイ』**:輪姦された初恋の女性が精神病院に入る回想シーン
- **夏目漱石『虞美人草』**:失恋した女性が狂い死にする
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## 結論
『Dolls』は、恋という感情が人間の理性を超えて暴走し、破滅へと導く様を描いた作品です。人形のように操られる登場人物たちは、恋という名の狂気に囚われ、自由を失っていきます。タイトルの「Dolls」は、そうした**恋に操られる人間の象徴**なのかもしれません。




