告白〜年金受給を遅らせて
人生は自分の思い通りにはならない。
年金遅らせ待ちの悲劇の話がある。
田中さんは65歳を迎えたとき、すぐに年金を受け取ることはせず、支給開始を繰り下げる決断をした。理由は単純だった——受給を遅らせれば年金額が増えると知ったからだ。
「65歳で受け取れば月15万円弱。でも、70歳まで待てば42%増えて21万円になる。さらに75歳まで待てば84%増額の27万円だ。これはいい話だな」と考えた田中さんは、慎重に待つことを選んだ。
ついに70歳になり、年金を請求した。繰り下げ効果と厚生年金の追加分もあり、支給額は月23万円ほどになった。
「これで安心して暮らせる」と喜んだ田中さんは、「常に平均よりちょっと下の人生だったけど、最後がよければすべてよし。あとはのんびり過ごすよ」と笑顔を見せた。
だが、人生は思い通りにはいかないものだった——。
年金の受給を始めてすぐ、健康診断で異常が見つかる。
精密検査の結果、がんが発覚。しかも、すでにかなり進行していた。
入院生活を送る田中さんは、後悔を口にした。
「こんなことなら、真面目に働くんじゃなかった」
「早く年金をもらって、バーッと遊べばよかった」
増額した年金は、自由な生活ではなく、治療費へと消えていく。
——人生の決断は、いつだって難しい。何が最善だったのか、誰にも分からない。
ただ、田中さんの涙は、その答えの一端を示していた。