「銃撃戦や裏切りだけでは観客の心を動かせない。人は血に惹かれるんじゃない、家族に惹かれるんだ」
「ゴッドファーザー」の映画化
会議の空気は重かった。誰もが「マフィア映画などヒットするはずがない」と信じていた。金を出す経営陣は、もっと派手で分かりやすいアクションを望んでいた。だがエヴァンスは譲らなかった。
「銃撃戦や裏切りだけでは観客の心を動かせない。人は血に惹かれるんじゃない、家族に惹かれるんだ」
彼の言葉に、場は静まり返った。エヴァンスが見ていたのは、銃口の向こう側にある“親子の眼差し”だった。マイケルが父ヴィトーの背中を見つめる瞬間。血縁が運命に変わり、運命が国の物語に重なっていく瞬間。それを映す映画は、犯罪映画ではなく、アメリカそのものの神話になるはずだった。
やがて撮影が始まると、エヴァンスは徹底的に現場を支えた。キャスティングをめぐっては何度も衝突が起きた。スタジオ側はマーロン・ブランドを拒んだが、エヴァンスは引かなかった。「ブランドでなければ、父は存在しない」と言い切った。アル・パチーノを抜擢する決断も、彼の強い後押しがなければ実現しなかっただろう。
夜、ひとりオフィスに残り、窓の外のハリウッドの灯りを見つめながら、エヴァンスは自分に言い聞かせていた。
「これは賭けじゃない。これは信念だ。父と子の物語をアメリカ人すべてに届けるんだ」
撮影現場の混乱、スタジオの圧力、監督と俳優たちの衝突。そのすべての中心で、彼だけがぶれなかった。彼が守っているのは一編の映画ではない。アメリカの未来に残る“文化”だった。
そして、その未来は確かに彼の眼差しの中で、形を取り始めていた。