映画の魔法を信じた最後のプロデューサー
ロサンゼルスの午後、乾いた空気にカリフォルニアの太陽が照りつける。パラマウントのオフィス、その一室で男はじっと窓の外を見ていた。濃いサングラス、ぴしりと決めたスーツ。彼の名は、ロバート・エヴァンス。
「ロバート・エヴァンスだ。覚えておくといい」
低く、抑えた声には妙な説得力があった。ハリウッドで成功を収めた男の声だ。1970年代、映画がまだ映画であった時代――夢と金と権力がせめぎあい、フィルム一本に世界が賭けられた時代。エヴァンスはその渦中に立ち、時代そのものをプロデュースした。
彼が手がけた作品は、アカデミー賞に30回ノミネートされ、10回受賞した。数字がすべてではないが、数字は嘘をつかない。そしてその頂点に君臨するのが、あの作品だった。
『ゴッドファーザー』。
「最初に脚本を読んだとき、分かっていたよ。これは単なるギャング映画じゃない。家族の物語だ。アメリカの物語だ」
製作総括として、彼はすべてに目を通し、口を出し、時には喧嘩をし、そして静かにすべてをまとめ上げた。監督のフランシス・フォード・コッポラと激しく意見がぶつかった夜もあった。主演のマーロン・ブランドをめぐってスタジオと衝突した朝もあった。それでも彼は折れなかった。
なぜなら彼は知っていた。『ゴッドファーザー』が“映画”という枠を越える何かになることを。
そして1973年、『ゴッドファーザー』はアカデミー賞作品賞を受賞した。壇上に立ったのは監督とキャストたちだったが、誰もが知っていた。あの映画の裏に、影の“ゴッドファーザー”がいたことを。
ロバート・エヴァンス。
彼は今日もあの頃のように、静かにフィルムの未来を見つめている。映画の魔法を信じた最後のプロデューサーとして。




