地獄に落ちたら、もう戻れんの?
小話
「地獄に落ちたら、もう戻れんの?」
少女は真顔で尋ねた。聞かれた老婆は、温泉まんじゅうを頬張りながら鼻で笑った。
「落ちたのかい、あんた?」
「ううん、昨日、うっかり弟のゲーム機を階段から落としただけ。でもあの目……完全にわたしを呪ってた」
「ほほう。それは地獄の入口まで行っとるかもしれんね。で、謝ったのかい?」
「キャンディ3個と交換条件で許してくれたけど、『あの世でも会おう』って言われた……」
「えらい弟だよ、それは。さて、地獄の話に戻ろうか。あたしゃ何回か落ちたけどね、結論から言えば、戻れるよ」
「え!? 落ちたことあるの!?」
「あるとも。一回は洗濯物を全部裏返しで干した罪で。もう一回は回転寿司でガリを根こそぎ取った罪でな」
「ガリで!?」
「地獄では“節度”ってやつをかなり重く見てるらしいんだよ。で、裁判官みたいなのが出てきてね、『このガリ泥棒め!』って」
「で、どうやって戻ったの?」
「うまく話をそらした。『でもサーモン美味しかったですよね?』って」
「それで許されたの!?」
「案外チョロいんだよ、あの閻魔も。甘党でな、羊羹あげたらニッコニコだったわ」
少女は思わず吹き出した。
「……じゃあ、もし本当に地獄に落ちたら?」
老婆はにやりと笑った。
「心配すんな。土産にまんじゅう持ってけば、だいたい何とかなる。あと“地獄行きエレベーター”は、裏ボタン押せば上りにもなるから覚えときな」
「え、あるの!? 裏ボタン!?」
「あるよ。“心からの反省”って書いてある」
「地味すぎる……!」