表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
428/478

サンズリバーサイド外伝 妙見ゆりの誕生 その1

サンズリバーサイド外伝 妙見ゆりの誕生 その1

越谷を預かる地縛霊管理官のユリは、その日、閻魔庁からの呼び出しを受けた。冥府に通じる道はいつも薄暗く、彼女の足元には炎のような霧が渦を巻いている。だが、ユリの足取りは乱れなかった。彼女にとってこの呼び出しは、決して初めてではない。

閻魔庁の大広間。その中央に、巨大な玉座がある。赤銅色の装飾に囲まれたそこに座すのは、冥界の裁きの主——閻魔大王だった。

「ユリ、来てくれてありがとう」

重々しい声が響いた。ユリは一礼する。

「越谷での働きは見事だ。だが、今日は別件だ。秩父の奥、中津川を預かる者が御巣鷹山の処理で手を焼いていてね」

ユリの表情がわずかに強ばる。御巣鷹山——1985年のあの事故以来、未だ成仏できずに彷徨う霊が多いと聞く。霊たちは強い未練と混乱を抱えたまま、この世とあの世の境にとどまり続けていた。

「しばらく中津川に行って、助けてくれないか?」閻魔大王は続けた。

「また越谷に戻れますよね?」とユリが問い返すと、閻魔は力強くうなずいた。

「約束する。戻れる。越谷のことは誰にも任せたりしない」

その言葉に、ユリは静かに目を閉じ、決意を固めた。

彼女は越谷の姿を脱ぎ捨て、秩父の女神・妙見にその身を変える。白い衣をまとい、星々の力を帯びた女神の姿で、彼女は中津川の山奥へと降り立った。

そこには、霧に包まれた谷間が広がっていた。成仏できぬ霊たちが、空を仰ぎながら立ち尽くしている。その中でも、ひときわ深い闇を纏った四つの魂があった。

「……あなたたちなのね」

妙見となったユリは、そっと声をかけた。

四名の魂。事故から二十年以上もの間、この世に縛られ続けている。だが彼らは記憶を失っていた。三人は軽度で、かろうじて名前や家族の面影を思い出せる状態。一人は深く記憶を閉ざし、自らが誰であるかすらわからぬ、重度の喪失状態にあった。

「もう、大丈夫。あなたたちは一人じゃない。……ここに来た意味を、一緒に探しましょう」

ユリは手を伸ばした。その指先に光が宿る。霊たちの瞳がわずかに揺れた。

中津川の夜が、静かに、確かに明けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ