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フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


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認知の気配 冷蔵庫を開けて

認知の気配 冷蔵庫を開けて


母に電話をかけたのは、ただの思いつきだった。けれど、返ってきた声に、どこか曇りがあった。


「今日? うーん……何を食べたかしらねえ」


以前なら、朝はパン、昼はうどん、と矢継ぎ早に答えたはずだ。曖昧な返事が気になりながらも、その場では深追いしなかった。違和感とは得てして、後になってじわりと効いてくる。


数日後、休みを使って母の家へ向かった。玄関を開けた途端、そこに漂う空気がいつもと違った。生活の匂いではあるのに、どこか停滞しているようだった。


「ちょっと冷蔵庫、見てもいい?」

何気なく言いながら扉を開けた瞬間、息をのんだ。


棚という棚にパンが積み上がっていた。食パン、ロールパン、菓子パン。パックの中で白く曇り、ふくらみ始めたものさえある。野菜室には、なぜかさらにパンが押し込まれていた。


「これ、どうしたの?」

私が振り返ると、母は「ああ、それね」と軽く笑った。


「ちょっとずつ食べようと思って買ったのよ。安かったからね。ほら、食べられるでしょ、まだ」


その“ちょっとずつ”が、到底追いつく量ではないことは、母も心のどこかで分かっているように見えた。だが、言い訳の言葉が口をついて出てしまうのだろう。困った子どものような目をして、私を見ていた。


責めるような言い方はしたくなかった。衝撃を与えれば、返って心を閉ざしてしまうかもしれない。私は何もなかった顔で、ひとつひとつのパンを袋ごとそっと取り出し、状態のいいものと悪いものを分けていく。母は台所の椅子に腰を下ろし、私の動きを黙って見守っていた。


「これね、私が食べるから。無駄にしたらもったいないけんね」

と笑うと、母もつられて微笑んだ。

冷蔵庫の奥行きが少し見えるようになったとき、胸の奥に小さな決心が生まれた。


その週末、母を専門医に連れて行った。あくまで「健康チェックのついでに」という形をとったが、診断は思っていたより明確だった。認知症の初期症状。


帰り道、母は黙っていたが、突然ぽつりと漏らした。


「パン、あんなに買っとったなんてね。自分のことやのに、気づかんのよ。あんたが冷蔵庫を開けてくれて、ほんと助かった」


私は歩調を合わせながら言った。


「小さいことでも、気づいたらよかったと思うよ。気づかんかったら、そのまま進むけんね」


母はゆっくりとうなずいた。夕陽が背中に長い影を落とし、二人の影が細く寄り添った。


親の健康を守る第一歩は、大きな行動ではなかった。ただ、小さな“違和感”を、そのまま過ぎ去らせないこと。

あの日の冷蔵庫の扉の重さが、今になってようやく、胸に深く刻まれている。


パンの中に「認知症を引き起こす成分」があるわけではない。

ただし次の3つが起きると、認知症リスクは確実に高まる。


精製パンによる血糖値スパイク


トランス脂肪酸の過剰摂取


パン中心の偏った食生活


また、パンを買い溜めすること自体が認知症初期症状の一つでもあります。

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