朝のヒロイン
(N局・制作局内の会議室 午後3時)
第一プロデューサー(P1)
で、来期のヒロイン、やっぱり新人路線でいくの?
第二プロデューサー(P2)
うん、オーディションはもう最終段階。編成からも、“発掘型の方針は継続で”って指示が来てる。
P1
そりゃそうなるよな……でも、もう110人超えてるんだよ? ヒロイン経験者だけでさ。これもう女優の一般化、いや量産化って言っても過言じゃないだろ。
P2
そう。朝ドラがスター女優の登竜門だったのは昔の話で、今や“出るのが当たり前”。逆に、大女優はもう出てこなくなった。
P1
昔の倍賞千恵子とか吉永小百合って、“役が人を育てる”じゃなくて、“人が役を超えてた”だろ。今はどうだ? フォーマットに合わせて誰かをはめ込んで、半年後には次の子。
P2
N局の事情もあるよな。スポンサーがいないぶん、公平性と普遍性が最優先される。だから“色がついてない新人”が選ばれる傾向になる。でもそれって、裏を返せば、突出した個性を敬遠してるってことでもある。
P1
他局は逆だもんな。T局やK局は最初から“数字が取れる顔”をぶつけてくるし、配信勢なんか演技力も個性も尖ってる奴を全力で推してくる。うちはどうしても守りに入る。
P2
しかも、“育てる”ことが目的になっちゃってる。育てきった先に何があるかの設計がない。出して終わり。だから“朝ドラ出身”って看板はあっても、そこから先に飛べる子はほんの一握り。
P1
で、毎年新しい“透明感のある新人”を選んで、また1年回す。無限ループ。積み上げじゃなくて、消費だよね。
P2
だから俺らがやらなきゃいけないのは、“ハマる子”を選ぶことじゃない。はみ出せる子、枠に収まらない子を見逃さないこと。そのくらいの気概がないと、本当に“大女優”なんて二度と出てこない。
P1
同感。で、そういう奴はたいてい“扱いづらい”って思われて落とされがちなんだよな。でも、本物って、最初はむしろ浮いてるもんだ。
P2
その“浮き”を“光り”として見抜けるかどうか。量産型の中から原石を掘り出すんじゃなくて、量産ラインに乗らない異物をちゃんと選ぶこと。
P1
難しいな。でもやらなきゃ意味ない。じゃないと──この枠ごと、ただの“女優供給システム”で終わっちまう。