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成仏屋3 ユッコの煙 サンズリバーサイド外伝

第三章 ユッコの煙

 大牟田の風は、どこか煤けていて懐かしい匂いがした。

 炭鉱の町だったからだろうか。あるいは、それはサキの記憶が勝手に作り出したものかもしれない。


 駅を出て、タクシーで数分。サキは旧友たちの墓がある丘に登った。

 草が茂っていて、石の隙間には小さな白い花が咲いていた。線香の煙が風にたなびく。

その匂いに混じって、ふとタバコの香りが脳裏をよぎった。


 「ユッコ……」


 彼女の顔が、はっきりと浮かんだ。いつも矢沢永吉の話をしていた。

 「やっぱ、YAZAWAはね、魂ばい」と、どこかで拾ってきたような言い回しで笑っていた。

 ビブレでは、いつも一番声が大きくて、一番早く酔っ払っていた。

 それでも、誰かが落ち込んでいると、誰よりも早く気づいて、誰よりも優しく接した。


 「この煙草がね、うちの命綱たい」


 サキが健康を気にして禁煙を勧めたとき、ユッコはそう言って笑った。

 「タバコ止めてまで長生きしたかないし。吸いながら笑って死ぬ方がうちに似合っとるやろ」


 墓前に立ち、サキは胸ポケットから細いメモ用紙を取り出した。

 それは、最後にユッコが送ってきたメッセージの写しだった。


 《ローズの話、続き気になるね。またビブレで語ろうや》


 それきり、返事はなかった。


 風が強くなり、サキの髪が舞った。ふと、どこかからYAZAWAの歌が聴こえてくるような錯覚がした。

 丘の下、町の雑踏の中に、今もユッコの声が残っている気がした。


 「サキ、うちはね、あんたの話、好きやったよ。ローズの話も、

SAKIMORIの話も、みんなに、伝えていかんね」


 幻聴のように聞こえたその声に、サキは小さく頷いた。

 手にしていた線香に火をつける。そしてもう一本、そっとタバコに火をつけて、墓前に置いた。


 「吸わんけど……今日は特別」


 火は、静かに揺れながら、やがて風に消えていった。

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