ベテランプロデューサー「田所」
マコト「田所さん、もしよかったら、明日の稽古、少しだけでも見に来ていただけませんか?」
田所「いや、遠慮しとくよ。プロデューサーは稽古は見にゆかないってのが俺の流儀なんでね。」
マコト「ああ……やっぱり、そういうものなんですね。」
田所「そういうものだ。演出の場に俺が顔出したら、現場が固くなる。役者もあんたもやりにくくなるだろ?」
マコト「プレッシャー、感じるかもしれませんね。たしかに。」
田所「それに、俺があれこれ口出しし始めたら、現場が混乱する。演出はあんたの責任で、自由にやってくれりゃいい。」
マコト「でも正直、どこかで田所さんに見てもらいたい気持ちもあるんです。今の自分がどう映るのか、知りたいというか……」
田所「分かるよ。でもな、俺が稽古場に行かないのは、信用してるってことでもあるんだ。」
マコト「……ありがとうございます。」
田所「それに、こういうのは昔からある“距離感”だ。稽古場はあんたたちの戦場で、俺は別の場所で戦ってる。そっちの舞台が整えば、俺の出番は初日の客席ってわけさ。」
マコト「なるほど……粋ですね。」
田所「粋かどうかは知らんが、少なくとも俺は、そうやってきた。」