僕のノルウェイの森(改変)その1
大牟田から十八歳で上京した。
養父は、何のコネもないぼくのために奔走してくれた。
同郷の大学講師に頭を下げ、紹介されたのが上石神井の下宿だった。
その下宿は、講師の住まいにも近かった。四畳半一間の和室で、二階には老婦人が住んでいた。
窓の外に広がる景色は、ぼくが思い描いていた東京とはまるで違っていた。
だが、養父は知らなかったのだ。
そこが新宿まで電車で一時間以上もかかる場所だとは――。
ぼくの中にあった“都会での暮らし”のイメージは、そこにはなかった。
なぜ、住んでいた大牟田より田舎なんだ?
一週間も経たないうちに、ぼくは無断で都心に引っ越した。
新宿での遊びが楽しくて、講師が激怒していることさえ忘れていた。
家賃はすでに支払い済みだったが、養父はぼくに何も言わなかった。
新しい住まいは、目白の和敬塾の近くだった。
ここは、まるで『ノルウェイの森』の舞台のような場所。
都会とは思えない静けさのなか、早稲田大学までは徒歩で十分。
新宿にも、少し無理をすれば歩いて行けた。
春樹さんとすれ違っていたかもしれない。彼は八年間も早稲田にいたのだから。
ぼくは「神田川」のような貧乏くさい暮らしは嫌いだった。
住んだのはできたばかりの洋間で、畳ではなくフローリング。壁は白く、天井が高かった。
そこにベッドと椅子、丸テーブルを揃えた。
刹那的かもしれないけれど、都会で洒落た暮らしがしたかった。
だから、バイトを探した。
ピアノの弾き語りの仕事だった。