サンズリバーサイド外伝 その1
映画『SAKIMORI』が封切られた夜、サキは上映後の余韻に包まれながら、静かにピンクシャンぺンのグラスを傾けていた。スクリーンの中では、彼女が手がけた作品が映像として息を吹き込まれ、キャストたちがその物語を生きていた。
そして、その翌朝。プロデューサーのエイジが言った。
「続編はどうする?『カサブランカで朝食』だろ。」
「ミュージカル仕立てで?」
「もちろん。ムーンリバーが主題歌だ。歌うだけじゃなくて、踊りも入れてくれ。」
サキは笑った。無理難題に感じたが、その提案には少しだけ心が躍った。
ジャスダックでその音源が高騰していると聞いて、予算が心配になった。
サキの心には、もう一つの迷いがあった。
彼女の中には、まだ語っていない物語がある。
『椿姫』や『パリ日記』に記された記憶たち。
それらを脚本として昇華させたいが、サキはその出来にはまだ納得がいかなかった。
そのとき、エイジが続けた。
「じゃあさ……『カサブランカで朝食』の後日譚ってことで。サキの母親の話にしよう。愛理さんの晩年を書いてみてくれよ。」
サキの胸の中で、何かが弾ける音がした。
母・愛理――かつて映画「カサブランカ」に関わった脚本家の母のことを、自分が知らないことが多いので架空で書くしかない。
しかし、サキが日本語化したムーンリバーの歌詞が没になるのが惜しくて、メモを見返した。
ムーンリバー いつの日か
渡っているわ きっと〜
夢は かなう 負け ないわ〜
私は 行く の〜
その日 まで〜