実家に住む男はだめよ!
実家に住む男はだめよ!
「そんな男、セクシーじゃない。今すぐ捨てなさい。ほら、私の携帯使っていいから。実家に住んでいる男とデートするなんてありえないでしょ。でもウィリアム王子ならありえるかも」
親友のリナは、カフェラテを置く手すら止めずに言った。
「いや、でも――」私はスプーンでコーヒーをかき混ぜながら言いかけたが、その先の言葉を飲み込んだ。
“でも彼は優しいし、料理もうまいし、映画の趣味も合うし……”
そんな言い訳は、リナの辞書には存在しない。彼女は、恋人に求める条件のひとつとして「実家を出ていること」を絶対視していた。
「それに、あんた三十でしょ? 時間ないよ。今すぐ次、次!」
リナの声は、カフェの喧騒にも負けないほどよく通る。周囲のテーブルの視線が少しだけこちらに集まるが、本人は気にも留めない。
「逆に考えてみなさいよ。三十過ぎの男がまだ親のすねかじってるってことは、家事能力ゼロの可能性大。将来は共働きで家事も育児も全部あんたが担当する羽目になるのよ?」
「でも……彼、家にお金入れてるって言ってたし……」
「それ、家賃じゃないから! 同居人じゃなくて、ママの息子!」
私は思わず笑ってしまった。笑うしかなかった。リナの言ってることが正しいとは限らない。でも、正論というやつは、なぜか一番痛いところに刺さる。
しかもその正論を、笑いながらズバズバ言えるリナは、やっぱりちょっとだけ羨ましかった。