『ゴースト・プロジェクター』 サンズリバーサイド外伝
『ゴースト・プロジェクター』 サンズリバーサイド外伝
妙見ゆりは、Q課の扉をノックもせずに開けた。中には、配線の山に埋もれながら課長Qが例によって仏頂面で作業している。
「課長、また何か変なもの作ってるんですか?」
「変なものとは心外だな。今回は、皆さまを早く成仏させるための兵器だ」
「……それ、兵器なんですか」
「ゴースト・プロジェクター。死者が現世に五分間だけ姿を見せられる。魂を正確に投影するんだ」
「誰がそんな……」と言いかけたゆりの耳に、隣のテストルームから声が飛び込んできた。
「――あっ!」
サキの声だった。試験中のプロジェクターが勝手に作動し、光が空中に人のかたちを描き出す。
現れたのは、優しげな瞳の女性。微笑みながら辺りを見渡し、サキの方を見て目を細めた。
「誰?」
「……お母さん?」
「……私よ。サキ」
女性の目が大きく開かれた。
「……サキ? まぁ、大きくなったのね」
数秒の沈黙のあと、サキがぽつりと口を開いた。
「私ね、脚本家になったの」
女性――愛理は目を輝かせた。
「え! 私も脚本家よ」
その言葉にサキは何かをこらえるように微笑んだ。
「……うん、知ってる」
やがてプロジェクターの光が弱まり、愛理の姿は霧のように溶けて消えていった。部屋に残ったのは、かすかな焦げた電子の匂いと、愛理の小さな嗚咽だった。
妙見ゆりは何も言わず、愛理の肩に手を置いた。触れることはできなくても、そこにいたという事実を、誰かが覚えていればいいと思った。
課長Qはモニターに目をやりながら、誰にともなく呟いた。
「次は、時間延長だな」