長谷川一夫の演出が宝塚に与えた影響 その3
長谷川一夫の演出が宝塚に与えた影響について、さらに掘り下げてご紹介します。
九、演出家としての身体性と説得力
長谷川は演出家でありながら、俳優としての身体感覚を持ち合わせていたため、演技指導においても非常に具体的でした。たとえば、役者に「こう演じなさい」と言葉で伝えるだけでなく、自らがその役を演じてみせることで、説得力と臨場感をもって伝えることができました。これは舞台経験の豊富な俳優でなければできない指導法であり、宝塚の若い演者たちにとっては非常に貴重な学びの場となりました。
十、宝塚のスターシステムとの親和性
長谷川は自身が昭和の大スターであったことから、スターという存在の見せ方、立たせ方、観客との距離感を熟知していました。宝塚のスターシステムにおいて、舞台上での「神格化された存在」としての見せ方を確立するうえで、彼の演出は極めて効果的でした。スターの登場に至るまでの音楽の盛り上げ方、照明の使い方、舞台上の静止の美など、すべてがスターを際立たせるために計算されていました。
十一、宝塚の演出文化への定着
長谷川の演出手法は一時的なものではなく、後進の演出家たちに受け継がれ、宝塚の演出文化として定着していきました。現在でも、スターの登場演出や視線の誘導、所作の型などにその影響を見ることができます。つまり、長谷川の演出は宝塚の「伝統」となったのです。
これらの積み重ねにより、長谷川一夫は宝塚における演出の革新者であると同時に、舞台芸術の様式美を体現した存在として、今なお語り継がれています。