長谷川一夫が宝塚『ベルサイユのばら』初演で残した演出の影響と、俳優たちの証言。その2
長谷川一夫が宝塚『ベルサイユのばら』初演で残した演出の影響と、俳優たちの証言を交えて続けます。
長谷川の演出は、単なる技術指導にとどまらず、舞台芸術に対する哲学と美意識を宝塚に注入するものでした。
五、舞台上の「間」と「沈黙」の使い方
長谷川は、台詞のない時間や沈黙の瞬間にも意味を持たせました。観客が息をのむような「間」を意図的に作り、そこに役者の存在感や感情を凝縮させることで、舞台に深みと緊張感を与えました。これは映画や歌舞伎で培った感覚を、宝塚の舞台に応用したものです。
六、舞台全体を一枚の絵画のように構成
舞台上の構図や照明、衣装の色彩バランスに至るまで、長谷川は一つの「絵」として舞台を捉えていました。群舞の配置や背景美術も、遠近感や視線の流れを意識して構成されており、観客の視覚に訴える完成度の高い舞台空間を作り上げました。
七、演出家としての威厳と包容力
俳優たちの証言によれば、長谷川は厳格でありながらも、役者の個性を尊重し、時にユーモアを交えて指導したといいます。鳳蘭は「長谷川先生がスターだったからこそ、スターの気持ちがわかる。だからこそ、私たちに“どう見せるか”を教えてくれた」と語っています。
八、宝塚の演出様式に与えた永続的影響
長谷川が導入した「スター登場の演出」「視線の誘導」「所作の型」は、以後の宝塚演出家たちに受け継がれ、現在に至るまで宝塚の様式美の基盤となっています。彼の演出は一過性のものではなく、宝塚の舞台文化そのものを変えたといえるでしょう。
このように、長谷川一夫の演出は、宝塚にとって単なる外部演出家の仕事ではなく、舞台芸術の根幹に関わる革新でした。彼の残した「型」と「美意識」は、今もなお宝塚の舞台に息づいています。