長谷川一夫の『ベルサイユのばら』初演における演出の特徴と功績を示す、いくつかの印象的なエピソード
長谷川一夫の『ベルサイユのばら』初演における演出の特徴と功績を示す、いくつかの印象的なエピソードをご紹介します。
1. スター登場の演出様式を確立
長谷川は舞台でスターが登場する際の演出に強くこだわり、音楽の盛り上がりに合わせて役者が登場するという演出形式を作り上げました。これは観客の視線と期待を集中させる技法であり、現在の宝塚でも定番となっています。鳳蘭は、「その演出法は長谷川先生が最初に始めた」と述懐しています。
2. 観客の視線を誘導する動線の徹底指導
長谷川は舞台上の動きだけでなく、観客席のどこを見るかまで細かく指導しました。たとえば、「右に三歩進み、二階席の端の観客を見てから、下手の最前列へ視線を送る」といったように、役者の一挙手一投足が舞台全体の流れと美しさに直結するよう配慮されていました。
3. ラブシーンの所作に「型」を導入
恋愛場面においても自然主義ではなく、立ち姿や動作の角度、視線に至るまで繊細に演出。緊張感と美意識に満ちた所作が、宝塚の恋愛描写をより様式的で魅力的なものにしました。
4. 自らが役になって演技指導
指導の際には自らマリー・アントワネット役になりきり、「フェルゼン」と台詞を発して鳳蘭の胸元に顔を寄せてみせたというエピソードも残っています。演出家としての実演は、役者にとっても極めて具体的で伝わりやすく、舞台への熱意の深さが伝わる一場面です。
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これらの事例はいずれも、長谷川一夫が宝塚の舞台表現に新たな美意識をもたらしたことを物語っています。