北野恋愛映画Dolls(5)好きな女性のために失明した男
北野恋愛映画『Dolls』(5)
好きな女性のために失明した男
『Dolls』の三話目は、ファン心理の異常さを描いている。
物語は、アイドルを追いかける青年の話だ。
ある日、アイドル(深田恭子)が事故に遭い、目を負傷してしまう。
青年は「そんな姿は見ない方がよい」と考え、ある行動に出る。
——彼自身が失明してしまうのだ。
深田恭子は、自分のために失明したと知って驚き、
一度は引退して面会を拒絶するが、やがて面会を許す。
恋へと進展するかもしれない、そんな一瞬の予感を残しながら、
しかし北野流の「暴力」がその希望を打ち砕く。
青年は後ろから来たトラックに轢かれ、命を落とす。
その場面には、ライバル的な存在のおっかけファンが登場しており、
事故への関与をほのめかす演出もなされている。
「好きな女性のために失明する」というモチーフは、
日本文学にも古くから見られる。
谷崎潤一郎の短編小説『春琴抄』では、
春琴の美貌に惹かれた利太郎が弟子入りし、やがて口説こうとする。
しかし春琴は彼を袖にし、仕置きとして額に傷を負わせてしまう。
逆上した利太郎は、春琴の顔に熱湯を浴びせ、大きな火傷を負わせる。
その後、春琴はただれた顔を見せることを嫌い、愛弟子・佐助さえ遠ざけようとする。
しかし佐助は春琴を思うあまり、自ら両眼を針で突き失明し、
盲目となってもなお、彼女に一生を捧げるのだった。