だからを読む人は、人を殺したくなるんですね
だからを読む人は、人を殺したくなるんですね
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(ケイコはメモ帳を閉じ、視線を落としたままぽつりと言った)
ケイコ 「……だからを読む人は、人を殺したくなるんですね。ジョン・レノンの殺人者も、あれを持っていたとか……殺されましたね」
サキ 「……いいえ、ケイコ」
(サキは首を横に振った。声は柔らかいが、芯があった)
サキ 「あの本は、人を殺したくさせる本じゃないの。むしろ――殺さずにいられなかった心を、かろうじて繋ぎとめようとする声なのよ」
ケイコ 「でも、は……」
サキ 「彼は壊れていた。あの本は理由じゃなく、言い訳にされたの。
彼の中の空洞を埋めるものを必死に探して、その手にたまたまあの本があっただけ」
(サキはカップのコーヒーを少しだけ口に含み、ため息を吐いた)
サキ 「が描いたは、人を傷つけることよりも、
傷つけずに済む場所を夢見ていた。無垢な子どもたちを崖から守ろうとしていたでしょう?」
ケイコ 「……そうでしたね」
サキ 「戦争をくぐった人が書いた無垢は、とても脆くて、大切なの。
それを読み解けずに『殺意』だけを見た人は、きっと物語の外に取り残されていた」
(ケイコは黙って頷いた。サキは静かに微笑む)
サキ 「物語は刃物じゃないのよ。だけど、砕けかけた心に当たると、ときどき鋭く感じるの」




