僕のノルウェイの森 6月3日
6月3日は特別な日となった。
普段は遠く離れた記憶の中にしまい込んでいる大学時代が、
突如として現実のものとなって蘇る。
後輩からの一本の電話が、全ての始まりだった。
「先輩、是非とも講演に来てください!」
声には熱意があふれていた。
久しぶりに訪れた45号館のラウンジは、
かつて過ごした時間が色褪せることなく心の隅に蘇ってくる。
会議室の扉を開けると、
期待に胸を膨らませる10名の学生たちの顔があった。
眼差しには、未来への渇望があり、
場の空気を一層熱くさせていた。
かつてのクラブは、男性が圧倒的に多い環境だった。
女性部員は、学習院短大や日本女子大学からの参加者で、
貴重さゆえに女子大生たちは
クラブ内で特別な存在感を放っていた。
目の前の会議室にいる学生たちを見渡すと、
構成は大きく変わっていた。
男女比はほぼ同じで、
自信と意欲を胸に抱いているように見えた。
風が軽やかに45号館の窓を揺らしていた。
外の木々は緑深く、初夏の息吹を感じさせる。
語り始めると、一言一句を逃さぬよう、
熱心に耳を傾けようとしてきた。
私は過去と現在が重なり合う感覚に襲われた。
深呼吸を一つして、クラブ入部の頃の話から始めた。
「高校時代、受験校に通っていて、
残念ながら映画クラブなんてものは存在しませんでした。
でも、映画への情熱だけは誰にも負けない自負がありました。
だから、早稲田大学に入ったら、
どうしても有名な早稲田映画研究会に入部しようと決めていたんです。」
話すうちに、自分も学生らと同じように、
未来に向かって夢を追いかける一学生だったのを思い出す。
クラブでの初日、ジャン・ピエール・メルヴィル監督について語り合った。映画製作への情熱も芽生えていった。
クラブでの記憶が、今、学生たちとの間で新たな意味を持ち始めていた。