カサブランカで朝食を(11)脚本家の神様
第六場
「みなさん!ごきげんよう。サーキーの映画の時間です。
アメリカ映画『カサブランカ』は全米脚本家組合の選考で一位。
リスナー様からベスト10を知りたいとのことです。
10作品もあげていたら時間オーバーになっちゃいます。
ベスト5を、さらっと作品名だけあげますね。
1位カサブランカ 2位ゴッドファザー
3位チャイナタウン 4位市民ケーン 5位イヴの総て
です。
脚本一位の理由はアメリカで脚本の神様と言われた
エプスタイン兄弟が書いたからでしょうね」
ケイコが質問してくる。
「神様なんですか?」
「あのチャーリー・カウフマンが映画で言っているの」
「アカデミー脚本賞を受賞した『マルコヴィッチの穴』などで
有名な脚本家ですね」
「カウフマンの作品の映画『アダプテーション』で、
脚本家育成講座のシーンがあるの。
そこで登場するマッキー先生が講義を始める。
『良い脚本とは、映画はラストがよければ全てよし、ラストで決めろ!
ただし、それを成立させるためのキャラクターを
突然登場させることはタブーである』」
「私はイントロだと思います」
「そうなの。私も最初の十分が勝負だと思うけど。
講義で生徒が『神と崇める脚本家は?』と尋ねるの。
すると『傑作中の傑作・カサブランカを書いたエプスタイン兄弟だ』
と答えるの」
「日本ではあまり知られてない脚本家ですね」
「エプスタイン兄弟は伝説ね。
何度もいいますが。二〇〇六年アメリカ脚本家組合で、
組合のメンバーが、千四百本以上の映画を選出し、
その中からさらにメンバーが投票して決定した百一本の一位が、
映画『カサブランカ』なの。アメリカ人にとって国宝級の映画。
いろんな人に影響を与えた人類の遺産なのです」
ケイコは言う。
「栄次郎の脱出は、まるで映画・サウンド・オブ・ミュージックと同じですね」
「あの家族は山を登ってスイスに逃亡したのね。
実話だわよね。
1938年、オーストリアはナチス政権下のドイツに併合されたのだけれども。
トラップ合唱団はアメリカ合衆国のエージェントから公演の依頼を受けていたの。
家族でオーストリアを出発。
ナチ党員だったにもかかわらず一家に同情的だった執事ハンス・シュヴァイガーが亡命を進言したの。
一家と行動を共にすることに決めたヴァスナー神父と一家は、
汽車を乗り継いでスイス、フランス、イギリスへと渡り、
サウサンプトンからアメリカへ向けて出航した」
ケイコ「栄次郎はパリへ。でもパリもナチの手に落ちましたね。
なぜポルトガルから米国へ亡命したんですか?」
「フランスもドイツの支配下になり、
モロッコのカサブランカもドイツの支配下になった。
となりのスペインは実質ドイツ配下。
ポルトガルもドイツの占領計画はあったが、優先順位で、
まだドイツの支配下になかったのね」
自作品「SAKIMORI」の舞台劇が好評でした。
出演:棚橋幸代さん、清水よし子さんその他。