カサブランカで朝食を(10)ホリーがリックの店にやってくる
ムーンリバーが流れる
ナレーション
「栄次郎は危険が迫って、カサブランカを脱出して
安全なポルトガルに逃亡したのだった」
やってきたホリーにサムがたずねる。
「栄次郎の亡命は、うまくいったのかい?」
「栄次郎は国吉教授のはからいで同じニューヨーク大学の教授として
亡命できた。これは国吉からの報告の手紙よ」
サムは国吉の手紙を読む。
「栄次郎はリスボンで米国のビザをとろうとしたら拒否された。
ルーズベルト大統領のしわざだ。
米国大統領ルーズベルトはヨーロッパ統一運動は好ましくないと思っている。
英国の首相チャーチルは、戦後の欧州の平和構想の中心にと、
栄次郎の運動を買っていて、栄次郎を支援している。
それで、モロッコのカサブランカで闇のパスポート
とビザの入手にホリーを行かせた。
その直後だった。ニューヨーク大学が栄次郎の招聘を許可したんだ」
サムは手紙を読むと言った。
「それは良かったな。フランス領のカサブランカはドイツの
配下にある。
亡命させるとなるとナチスのスパイとのドンパチの危険があったろう」
「そうね。栄次郎は運がいいわね。
でも栄次郎は坊っちゃんね」
「なんかあったのかい?」
「情報によると、アメリカのラジオで亡命したと電話したらしい」
「大胆だね」
「栄次郎はニューヨークに到着して、たまたまラジオを聴いていた。
ラジオ放送でニューヨーク・タイムズの記者が
『リヒャルト(栄次郎)は死んでいても不思議はない!』とコメントした。
栄次郎はNYタイムズに電話をかけて抗議したのよ。
『ハロー!
ぼくはリヒャルト・ニコラウス・エイジロ・クーデンホーフ=カレルギーです』
『え? なんですと』って記者が驚いた。
栄次郎は『無事に亡命しました!」』 と言ってしまったわ」
「新聞記事になったんだな。まったく坊っちゃんだ」
「そうなの。暗殺されないことを祈るわ。
リックは?」
「ここんとこボスは署長と何度か話し合いしている。
ドイツの将校が来て、店が休業になったんだ。
ボスは、署長と打ち合わせ中だ。
栄次郎が無事に亡命したと報告しないと。
一緒に警察署に行こう」