SAKIMORI 終章1 空港にて
私は英次と結婚してヨーロッパに新婚旅行に来ていて、
今日は帰国することになっていた。
英次とホテルのカフェでエスプレッソを飲んでいると、
英次は日本の新聞を読んでいて、「守一がやったよ」と言った。
「え! 守一がどうしたの?」
「主演男優賞だ。守一が候補だって」
「あの作品ね」
「だろうな、あれほどの逸材はめったに出ないよ」
「あの子は、なんのプレッシャーもないような。
どうでもいいと思って演技しているけど。
それがなぜか自然なのよね」
ひっそりと帰国した私たちを、空港まで守一が迎えに来ていた。
私はびっくりして「あら、しゅうちゃん! どうしたの?」と言った。
英次は「わざわざ、お迎えなんて、なにかあったのか?」と尋ねた。
何も返事をしない守一に、
私は「なんか、元気ないよ、しゅうちゃん、だいぶやつれて。
あ! そうだ。おめでとう! 主演男優賞候補だって?」と言った。
「僕は、そんなのどうでもいいんです。
僕はあなたのために俳優やっているだけで、
作品が終わって、今日あなたが帰らなかったら、
どこかへ逃亡を考えていたんですよ。
マネージャーなどの付き人もいるんです。
僕はもうたえられない。付き人がつきっきりで指示するし、
毎日電話や花束その他プレゼント攻勢。もうゆっくりできる時間がないんです」