SAKIMORI 夏目漱石の『虞美人草』(ひなげし)
漱石が天女のように美しいと表現した女性、藤尾が声を荒げる。
「嘘ですわ。
嘘! 嘘!
小野さんは、私の夫です。私の未来の夫です。
あなたは何を言うのです。失礼ですわ」
小野の婚約者を藤尾に紹介して、宗近は言う。
「事実を報告しているだけだ」
「私を侮辱する気。なぜ小野さんは来ないの?」
そして小野の婚約者を見た藤尾は倒れてしまう。
「は~い、カット」と、監督が言った。
夏目漱石の『虞美人草』(ひなげし)。
漱石は藤尾の死を語らないの。
いきなりお線香という文字で、知ることになる。
これまでのドラマ化では藤尾は毒をあおる。
私は納得がゆかない。
だからフランソワ・トリュフォーの「アデルの恋の物語」や、
北野武の「Dolls」のように、
狂ってしまう方がいいの。
藤尾は自分から死ぬような女性じゃないわ。
でもそのことで監督と意見が合わないで、私は監督に任せたわ。
帰宅すると、英次から台本の原案が届いていた。
フランソワーズ・サガンの7番目の小説「優しい関係」である。
サガンが珍しくも舞台を米国のハリウッドにした3人関係の話だ。
主人公のモデルはジェームス・ディーンだ。
英次も調査してくれたが、まだ本ストーリーは世界のどの国でもドラマ化されていない。
おまけに日本の出版社では廃版になってしまった。
「おいくつですか?」とルイスは言った。
驚いたことに、私は自分が真実を言うのを聞いた。
「四十五よ」
「あなたは幸せだな」と彼は言った。
私は呆気にとられて彼を見つめた。
彼は26歳か、あるいはもっと若いかもしれない。
「しあわせですって? なぜ?」
「そこまでたどりついたからです。それはりっぱな実績です」