SAKIMORI ナッシングダークネスその3
(台本の原案)
突然誰かの足音がして老婦人はおびえた。
ドアをノックする音がする。
老婦人「だめよ」
ケンジ「大丈夫だよ」
ノックの音
ケンジ「返事をして」
ノックの音
ケンジ「大丈夫。母さん!出て!」
ノックの音
老婦人はチェーン越しにドアをあけると、中年の男がのぞきこむ。
解体業の男「悪いが命令でね。
時間がないんだ」
老婦人はドアを閉めようとする。
男はチェーンを切って無理やりドアを開けて部屋へ入る。
老婦人は気絶して倒れる。
(暗転)
老婦人は目をさますと、中年の男が立っていた。
解体業の男「大丈夫かね。
しばらくそのままで。
たまげたよ、急に倒れて」
老婦人「まだ生きてる」
解体業の男「わかってほしい。
あんなこと、したくなかったんだ
仕方がなかったんだ」
老婦人「・・・・」
解体業の男「もうじき解体屋がくるんだよ。
気の毒だが、もう期限切れなんだ」
老婦人「あなたは死神じゃないの?」
解体業の男「何のことだね。
ともかくここは壊さないと。
みんな引越しした。
もう空き家かと。
あんたはとっくに越したと思っていた」
老婦人「わたしも出ていけって?
ここから外へ?
そんな(恐怖の顔をする)」
解体業の男「通達があったろ。
俺も困るんだ。
市の要請で、
ここを壊さないとならん」
老婦人「どうして?」
解体業の男「寿命だよ。
老朽化している。
建て替え時だ」
老婦人「・・・(悲しい顔をする)」
解体業の男「そりゃ長年住み慣れた家だ。
愛着があるだろう。
壊されたくない気持ちはよくわかる。
だが古くて危険なら、
建て替えしなければならん。
人生と同じだ。
新旧の交替だ。
世間は俺を壊し屋だと言う。
住人を追い立てる鬼だとね。
そりゃ違う。
新しいものをうみだす余地を作っているんだ。
自然の摂理さ。
老木が朽ちたあとに新しい芽がふく、
動物はいずれ死ぬんだ、若いものにあとをゆずる
人間だってそうだ」
老婦人「私はいやよ」
老婦人はドアが開いていることに気づき閉める。
解体業の男「無駄だよ。
じき、そのドアなくなってしまう。
取っておきたいものは運び出そう。
手伝うよ。
これ以上頑張られると、
警察を呼ばなければならん。
協力してほしい」
老婦人「待って。
(ケンジに向かって)
説明してあげて、
私が出られないわけを」
ケンジ「・・・・・」
老婦人「(ケンジに向かって)
話しをして。
私を助けて」
解体業の男「何の真似だ。
誰に話しをしている?」
解体業の男にはケンジは見えないのだ。
老婦人「あの人はケンジよ。私の息子」
解体業の男「悪いが出て行かないなら警察を呼ぶ。
(男は、でていく)」