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SAKIMORI 愛去り 健介の場合
夜が明けない4時頃、健介は芙美子をハーレーに乗せた。
「離婚してどうするの?」
「ひとりでさまようんだ」
「さまよって、なにをするの?」
「何度も言ったろう。なにもしない。さまようだけだ」
「健介さん、どっちへ行くの」とハーレーに乗せられた芙美子は尋ねる。
「北に行く」
南関の入り口に着くと道路に芙美子を下ろした。
「今日はどこまで?」と芙美子は尋ねる。
「わからない」
「気をつけて」芙美子は、いっしょに、
どこかへいってしまいたいと思った。
連れて行ってと懇願する目で健介をみつめた。
「別れ話が起きてから一度も泣かなかった。
芙美子、君は素敵な女だ」と健介は言った。
呆然と道路に立ちつくす芙美子をおいて、
「元気でいろよ」と最後の言葉を残して、
ハーレー独特の爆音を響かせて悠然と走り去っていった。