その35 僕の落日 統合失調症
その35 統合失調症
常駐している女性技術者が救急車で運ばれた。
かつぎこまれた病院に行くと
女性は1日入院で退院できるという。
病名は医師の守秘義務で、僕にはわからなかった。
現場に、お騒がせしたと、
お詫びに行くとマネージャーが言った。
「突然に椅子から倒れた。大きな音がしたよ。
テンカンのように口から泡をふいていて、失神状態だった」
会社が僕に、20歳の新入社員女性D子の常駐先探しを命じた。
張り切って修行先を探して、
渋谷の大手ソフト会社へ常駐させた。
常駐して2週間が過ぎた頃だった。
D子から相談があるというので、
常駐先の近くの喫茶店で会った。
「私は大丈夫でしょうか?」
「仕事のことかい?」
「はい。私のことで、Nさん(現場の上司)らが、
何回か話し合っているんです。もうクビでしょうか?」
「わかった。聞いてみるよ」
僕は後日、客先のNさんにD子についてたずねた。
「彼女、仕事は問題なくやっているよ。
何かあったのですか?」
「そうですか。お役に立っていれば何よりです」
僕は客先をあとにして、会社に戻ると、
D子に「あなたの評価は高いので、がんばって・・」
とメールを送った。
それから2週間は経過しただろう。
Nさんから呼び出された。
「D子さんだが、変なことを言っているんだ」
「なんと言っているんですか?」
「わたしを病院に入れないでくださいなんて言うんだよ。
僕らはよく打ち合わせをするのだが、それを彼女は、
病院に入れる相談をしていると思っているんだ」
僕は会社に戻り、哲郎に相談した。
「それは引き上げた方がいいな」
僕はD子に会いに現場へ行った。
現場の会議室に呼んで、引き上げることをD子に伝えると、
D子は「お願いですから、入院させないで」と嘆願する。
「だいじょうぶだよ。入院じゃない。会社に戻るだけだよ」
D子は不信な顔をして、現場からの撤収に賛同しなかった。
「どうして入院しなければならないんだ?」と僕が言うと、
D子は泣き出して答えた。
「父と母がわたしを病院に入れたんです。
病院の男の人が二人来て、私を連れて行ったんです」
会社は僕には難題の技術者ばかりを振り向ける。
優秀な技術者が入社したら所長らが営業を行う。