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その28 ショウジョウバッタ

その28 ショウジョウバッタ


ラクシュミからの二人目は、公明だった。 

僕がトライアルで入社した会社で一緒だった男。

そして、ツカサを紹介した男だ。

公明は専門学校を卒業したばかりの弟も連れてきた。

プログラマーは向かないと会社をやめた公明に、

ネック社のパソコン・ヘルプデスクの仕事がみつかった。

パソコンに問題が生じてかかってくる電話に応対する仕事だ。

一般家電と違うパソコンを、食材の入った電気鍋と例えたとする。

使用者は、調理された食材を食べて、料理が美味しくできていないと、

電気鍋パソコンが悪いと思ってしまう。

ヘルプデスクの仕事は鍋が悪いのか、食材が悪いのか、問題の切り分けからはじまる。

食材とはアプリケーションソフトで、ネック社が開発した製品ではない。

使用者側は切り分けができない。

ヘルプデスクの仕事には我慢を要求される。人間的に成長する。

電話応対をゾンザイにすると大変なクレームになる。

わざと憂さ晴らしにパソコンとは無関係な話で、嫌がらせや愚痴を言う人もいる。

怒らせないようにしなければならない。

相手が自ら電話を切るまで、担当者はじっと我慢するしかない。

勝手に電話は切れない。

顔も見えない人間と電話応対する。言いたい放題の、言葉の暴力にあう。

一方通行の話しにも、耐えないといけない仕事だ。

公明兄弟は、パソコンのヘルプデスクの仕事に向いていたようで、

現場で良い評価をもらった。


 ネック社のヘルプデスク紹介ルートはPCT社が独占していた。

PCT社の下に関西系の草原ネット社があり、

草原ネット社経由で公明兄弟を常駐させていた。

草原ネット社の支社長が辞めたので、後任の支社長に挨拶に行った。

「はじめまして、公明らが大変お世話になっています」

後任のショウジョウ支社長は

「これは、ごていねいにご挨拶ありがとうございます。

本来ならば、こちらから挨拶に」 と言った。

「前の支社長は、どうなさったのですか?」

「こちらの恥で、あまり言いたくないですが、独立したようです。

社員も全員もっていかれました」

「それは大変ですね」

数週間が経過した頃だった。

僕は公明兄弟の現場慰問に出かけた。

多摩センター駅近くの店で公明らとランチをした。

公明が言い出した

「草原ネット社の新しい営業から

ウチに来ないかと誘われました」

「それは仁義破りだ。なんてことをする会社だ。

情報ありがとう」

僕はショウジョウ支社長へ抗議はしなかった。

公明らの常駐契約が切られる可能性があった。

他に優れた技術のない公明兄弟で、いくらでも代わりの人材がいるからだ。

草原ネット社は他の会社がうらやむような、ネック、PCT社との太いパイプがあった。

幸運にもそんな会社と知り合うことができただけでも、

ありがたかった。

ラクシュミという夢でつながれているので引き抜きされない。

引き抜きの誘惑も、はねつけてしまう。

以後、草原ネット社へは新たに要員の紹介はしないと決めた。


公明らと解散して、多摩センター駅で、IT業界の長老的存在の蒲田社長に会った。

再びお茶を飲む。コーヒーを注文して、業界の情報交換となった。

蒲田社長が言った。

「草原ネット社知っているかい?」

「はい、草原ネット社経由で、現在ヘルプデスクに常駐させています」

「うちも草原ネット社から入れている。

ルートは草原ネット社が独占しているからな。

しかし、あの会社は、あれをやるんだ」

蒲田社長が両手を頭にかかげるポーズをした。

僕が不思議な顔をしていると

「『バッタ』だよ。うちの社員が被害にあったよ」

と社長が言った。

「うちも引き抜きの打診されたようです」

「こうなれば目には目をだ。

俺はやるよ、草原ネット社の要員を引き抜くよ。

他の会社でも報復にでるらしい。

やられたら、やりかえすだ」

草原ネット社は数名しか引き抜いてないかもしれない。

公明兄弟のように打診だけで終わった例もあるかもしれないが、

引き抜きは仁義なき行為とみなされる。

悪評は尾ひれもついて、

あっというまに業界全体に伝わった。

草原ネット社の支社長ショウジョウはバッタ支社長と言われるようになり、

在任期間は短命に終わった。

ショウジョウは草原ネット社を辞めて。他の会社へ転職したが、

引き抜きの汚名は残ってしまって、相手にされなかった。


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