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その27 2つ目の地獄

その27 2つ目の地獄


ラクシュミからの第一号技術者は秋葉原通り魔殺人事件で、

無事に生還したヨシモトだった。

博文社長所有の虎ノ門ビルの9階にあるラクシュミの事務所で、

ヨシモトを宮本から紹介された。

僕はヨシモトの履歴書をみて、たずねた。

「宮本さんと同じ専門学校なんだ?」

「はい、先輩になります」

「宮本さんはゲーム科だけど、

ヨシモト君は声優科なんだ?」

「はい、アニメの声優が、僕の夢なんです」

 僕は苦戦するだろうと思った。

まだ18歳で、仕事をした経験はなかった。

「COBOLの資格を持っているんだ?」

「はい、高校の授業でプログラム演習をやり、

COBOL言語の資格検定を受けました」

「COBOL言語って、今の若い人には人気のない言語だが、

銀行とか金融大手の企業のコンピュータシステムは、

ほとんどがCOBOL言語で書かれている。

地味だが、隠れたコンピュータ資産なんだよ」

若い人はCとかJavaなどの流行の言語を追いかけている。

COBOLをやっている若者は極端に少ない。

レアがアピールポイントだと思った。

ヨシモトは九州の離島出身、土地柄だろう。

COBOLという、時代遅れになった言語の学習がまだ行われていたのだ。

ヨシモトの修行先がみつかれば、ラクシュミと僕の会社の売上になり、

一石二鳥になるのだが、修行先がみつかるかどうかは、縁次第だと思った。


ヨシモトの修行先を探した。

ITの会社は東京だけで1万社以上あるだろう。

大きい会社より、社員10名足らずの小さい会社を回った。

業界の団体名簿や、ネットで「ソフト」と検索してヒットした会社などに、

アポを入れて会社訪問を繰り返してヨシモトを売り込んだ。

規模が小さい会社の方が、わざわざ訪問してくれたと、

社長みずから応対してくれた。

小さい会社から厳しい業界をサバイバルして、

生き残っている秘訣を学べた。

小さい会社では隠しようがないのだ。

話していると、会社の強みがわかる。

ヨシモトの仕事が見つかった。

サトケン社長の会社だった。

まだ未就職のヨシモトに、修行先など見つかるものではない。

奇跡だと思った。

よほどの縁があったのか、強い引きがあったのだろう。

幸運の引き寄せは、僕ではなくて宮本だろうか?

いや!今思うとヨシモトだ。

秋葉原通り魔事件で生還したほどの強運なのだ。

ヨシモトでサトケン社長という強力な客先と出会えた。

サトケン社長は以前、上場IT会社の社長をしていたそうで、

定年を迎え小さな会社を興し経営していた。

サトケン社長は僕を、ちゃん付けで呼んだ。

サトケン流の親しくなるアプローチなのだろう。

「めずらしいよ。18歳で流行遅れのCOBOLをやっているなんて、

誰もいないよ」

「そうですか、でも、さすが、社長、人脈がスゴイですね」

紹介されたヨシモトの仕事は大手携帯電話会社◯コモの料金計算システムだった。

開発言語は漢字COBOL(YPS-COBOL)を使っていた。

略して「YPS」と言われたCOBOLの発展系で、

日本語でコーディングしてゆく。

「読む」とか「書く」とか記述すると自動的にソースができて、

プログラム仕様書になる。

◯コモ携帯電話料金計算システムは業界では有名な地獄のひとつだった。

頭をよぎった。

社会保険システム地獄に匹敵すると噂されていたからだ。

「アラジンの魔法のランプと呼ばれているシステムだが、

 地獄と言われているのは開発ではなくて運用の方だ。

ヨシちゃんはセーフだよ」と社長は言った。

「地獄というのは有名ですが、

どんな点が地獄なんですか?」

「考えてみろよ。携帯電話の加入者は約6千万人だ。

みんなの通話料金を毎月締めて集計するんだ。

どれくらいの件数になると思う?」

「なるほど、それは想像するだけで恐ろしいですね。

6千万×60(秒)×60(分)×24(時間)×31(日)ですか」

「そうだ。システム設計は、常に処理する件数の最大値を想定しなければならない」

「おそろしい件数ですね」

「おそらくひとつのコンピュータでは処理できない件数だろう。

月次処理だけで、三日以上かかるらしい。

そこまで持っていくのに、何度もデスマーチ(死の行進)があったらしい。

つまり最大想定値に対応していないので、処理する度に、

コンピュータがデータオーバーでダウンするらしい」

「それは地獄だ」

◯コモ顧客情報管理システム・アラジンシステムは、

世界でも有名なシステムだった。

サトケン社長と別れた後、

電車の中で僕は昔を思い出していた。

若い頃、月次処理の運用処理をしていた頃だ。

データ件数は約30万件。

まだコンピュータに漢字が採用されていない時代だ。

請求書を印刷するのに高速プリンター10台が稼働する。

全部打ち出すのにその当時のコンピュータで、まる三日かかった。

請求書用紙の補充のために深夜も交代で監視する必要があった。

コンピュータマシンルームは広く、みんなで三角ベースの野球をやった。

球は紙を丸くして、バットも紙で作った。

当時は地獄も天国にする自由さがあった。

まだコンピュータというものが神秘な森の中にあったからだろう。

電算室が厳重に監視されるなんて、まだ考えられない時代だった。


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