その26 宮本と会った
その26 宮本と会った
秋葉原通り魔殺人事件で無念の死をとげた宮本は、ツカサの紹介だった。
携帯にツカサから電話があった。
僕はまたダメかと覚悟したが、内容は違っていた。
「僕の友人が、仕事を探しているのですが」
とツカサは言った。
「わかった。会おう」
僕は宮本と会った。
「はじめまして、宮本です。
ツカサがお世話になっています」
宮本の職歴書を見るとデータ入力の経験だけだった。
ツカサの紹介だからプログラマーだと思っていた。
宮本はプログラマーじゃなかった。
運用の仕事をしていた。
年齢は23歳。背は高く、
ひょろっとしていて、細身だった。
眼鏡が気になるのか眼鏡を外す時がある。
眼鏡を外した顔は幼さが残る、ベビーフェイスだ。
礼儀正しい20代を見たことがなかった。
黙って職歴書を熟読していると、
宮本が意外な話をした。
「僕は、会社をつくろうと考えています。
できれば、手伝ってもらえないですか?」
初対面なのに大胆だと思ったが、
なぜか頼られているのを感じた。
「どんな会社だい?」
「将来はゲームを制作したいんですが、
今のところITの会社です」
「どれくらいメンバーはいるんだい?」
「まずは5名、今、仲間を集めているところです」
「そう・・・・」
宮本の話は悪くないと思った。
会社ができて、社員(技術者)が増えれば
自分の売上が上がる。 リスクもデメリットもない。
「協力しよう。会社名は決まっているのかい?」
「はい。ラクシュミです」
「ほう、漢字で楽しい趣味の楽趣味って意味かい?」
「いえ、フランス語で幸福を司る神で、
オリジナルはインドです」
「じゃ、俺は社員の派遣先の紹介に
専念すればいいのかい?」
「はい、よろしくお願いします。
それで、会社登記とか事務所などが、
まだこれからなんです。
どなたか紹介いただけますか?」
「わかった。
事務所ならば、ビルオーナーの博文社長を紹介する。
会社登記も博文社長が世話するだろう。
資本金受託の銀行は所長の哲郎に頼んでみる。
なにせ三菱銀行にはコネがあるんだ」
哲郎に宮本のラクシュミ会社を報告した。
オープンにして進めた方が良いと思った。
哲郎も即座に「いい話だ」と言った。
ラクシュミの役員にならず、横からサポートする。
哲郎のコネで資本受託は三菱銀行に決まった。
博文社長にも快諾してもらい、税理士や会計士も決まった。
事務所は、港区虎ノ門に置き、宮本は取締役社長になった。
ラクシュミには最初から仲間が集まったわけではなかった。
宮本の友人らは様子をみていたのである。